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  • ドラゴンクエスト8

    スクウェアエニックス

    最高(50点)
    2005年5月12日
    ひっちぃ

    日本にコンピュータロールプレイングゲームを根付かせた最初の作品の一つであるドラゴンクエストシリーズの八作目。独特のファンタジー世界で、一つの目的を持って旅をする主人公たちが、仲間と出会い事件を解決しながら最後に世界を救うゲーム。

    異形の者二人と共に馬車で悲壮な旅をする主人公の青年。訪ねるはずだった人の家が目の前で火事により焼け落ちる。五作目のいきなり涙々の導入部とはまた違った暗さがある。

    いきなり批判しちゃうけれど、今回はストーリーがちょっと安っぽい。兄を亡くした美少女ゼシカと、義兄との確執のある美青年ククールが、三文芝居で描かれている。原作から脚本までいまいちだった。主人公たちの内面描写をここまでやってみせたのはシリーズ初だと思う。堀井雄二らしからぬ作風で驚いた。でもこれはあまりうまくいっていないと思う。それなりに楽しめはしたのだけど。

    堀井雄二はこういうのをやっちゃいけないと思う。この人の真骨頂は、ズバリ核心を突いてくるところだと思う。特に五作目でプレイヤーに結婚相手を選ばせるという趣向には感動した。しかも決して丸く収まらず、選ばなかった方の相手は失意のうちに物語から消えるという非情なまでのリアリティ。これがありきたりな話だったら、選ばれなかった相手も別の人を見つけて幸せになりましたとさ、とかご都合主義な結末をつけるところだと思う。その代わり物語としては微妙なのだけど、そのおかげで私たちは何か真実を突き付けられたように思う。七作目で仲間がそれぞれの道を歩むというのもグッときた。ほかにも歴史改竄がどのように行われるかだとか、取り返しのつかない強烈な寓意、モンスターに呑み込まれる街など、知らないうちに私たちは他では得難いストーリーを楽しんできたと思う。

    でも今回の八作目は物足りなさが目立ってしまった。その理由は、あまりにオーソドックスな話だからだろう。堀井雄二らしさと呼べるものが今回は少なかったと思う。普通の冒険話も描けるんだなあ、という失礼な感想を持った。

    さてシステムについての話に移る。今回は前作のシステムがほぼそのまま踏襲されている。追加された点として、モンスターを編成してチームを作り、戦闘時に3ターンだけ戦わせたり、闘技場で勝ち抜いて報酬を得ていくことができるようになったりした。武器のスキルというものが生まれ、レベルが上がるとスキルを割り振って技を覚えていく。

    本シリーズでのシステムの変遷を思い出す限りでまとめると、

    1 … 一人。
    2 … 三人。
    3 … 四人。ジョブ選択型。
    4 … 同時四人。馬車入れ替え制。マルチシナリオ。ジョブ固定。
    5 … 同時四人。馬車入れ替え制。モンスターを仲間に。親子二代・家族。ジョブ固定。
    6 … 四人。時代錯綜。とくぎ追加。ジョブ適用型。
    7 … 四人。ジョブ適用型。時代並行。ショートシナリオ型。
    8 … 四人。モンスターチーム救援。ジョブ固定。スキル制。

    1,2,3がいまでも高い評価を得ているのに対して、4はマルチシナリオで評価が分かれてしまう。5でスーパーファミコンになり、モンスターを仲間にできるという新システムで評価されなおし、6でとくぎが追加されて生まれ変わる。7が出るまで随分掛かり、ハードはプレイステーションとなったが、ショートシナリオ型で評価が分かれてしまう。8も長く掛かり、ハードはプレイステーション2となったが、さてどうなったのだろう、というのがこれまでの流れである。

    今作で導入されたスキル制は、6で導入されたジョブ適用型のとくぎ習得システムを、より単純化したものだ。ジョブ適用型のシステムは、ファイナルファンタジー5にもあった極めてやりこみ要素の高い、反面散漫なところのあるシステムだった。6が出たとき私はよくドラゴンクエストにこのシステムを組み入れたものだと少し驚いた。しかしライトユーザにとってはちょっと抵抗のあるシステムだったと思うし、ドラゴンクエストらしからぬシステムのように思った。しかしスキル制にしたことで、言ってみれば各キャラの特性ごとに固有のスキルから選ぶことになるため、どれを選んでも失敗しなくなり、自分の好みを反映させる楽しみを純粋に味わうことができるようになった。魔法使い系という設定のキャラに殴り系の特徴をもたせるといったマニアックな楽しみはできなくなったが、キャラクターの個性のためにはそのほうがいいと思う。ファイナルファンタジー8がキャラクターを没個性にしたことで批判を受けた例がある。

    モンスターチームを編成するシステムは、元をたどれば5で生まれたモンスターを仲間にするシステムにたどりつく。5と違うのは、パーティの一員にはならず、活躍させることのできるターン数が限定されていることである。5はそもそも主人公が獣使いみたいな位置付けだった。あまりモンスターに比重を置くとゲームのポイントが変わってしまうのでこうなったのだろう。

    というわけで、8のシステムにはあまり革新的な要素はない。これまでの仕組みを洗練させる方向に進化したのだろう。

    8の最大の特徴はグラフィックスだ。7のときプレイステーションになってフィールド画面が3Dになった。しかしそれはあくまでこれまでの2Dの延長で、よく言えばこれまでのドラゴンクエストらしさを保ったままの3D化だった。今回では大きく変わり、まるでテレビアニメのような、頭身もデフォルメされておらず、イラストで描かれた主人公やモンスターたちがそのまま画面に登場するようになった。ドラクエ感をそこなわずに、いや、これが本当のドラクエなんだという説得力のある、すばらしい仕上がりになっている。酒場の女性なんか特に、ようやく鳥山明の絵の魅力を引き出したと思う。

    ドラゴンクエストの世界観はこれまでにかなりイラストレートされてきた。7までのゲーム画面はイラストとは大きくかけ離れていたのだが、私たちはそれをドラゴンクエストの世界だと思って想像力を膨らませて楽しんできた。古くは週刊少年ジャンプの紹介記事やマンガがあった。そういったベースがあったからこそ、8がすんなり受け入れられたのだと思う。ファイナルファンタジーが7で3D化した時よりもプレイヤーの印象がずっと良いのだ。

    それに加え、気合の入ったアニメーションで敵の動きを表現していたり、フィールドやダンジョンを設計していたりと、一体どれだけの労力が掛かっているのか知れない。

    音楽は相変わらず素晴らしい。すぎやまこういちの音楽の魅力は初代から変わらない。どんなチープな音源でもよかったのだけど、今回ようやくCD並みの音質となり、特に空を飛ぶときの音楽が、オーケストラ用に編曲されたバージョンのままゲームでも使われるようになった。大空を飛んでいる映像を見ながらこの音楽を聴くと、初出の3のときやそのオーケストレーションされたCDを聞いたときよりもずっと印象が良かった。オーケストラ版はなにか別の曲だと思って聞いていた。3のチープな音源をディスるわけじゃないけれど、いままでこの曲がそんなに好きじゃなかった自分がいたので、大空を翔る後ろで流れているこの曲を聴いて、ああこれがこの曲の本当の姿なのだと感動した。ただ、スーパーファミコンでも古代祐三が「アクトレイザー」でやったようにもっとできたんじゃないかとも思った。

    さて実際にプレイしてみたところ、難易度が高いなと感じた。かなり絶妙なバランスの上に成り立っていると思う。うまい人はほとんど経験値稼ぎをせずに進んでいけたと思う。私はちょっと下手なせいか、何度かつまずくことがあった。特に中盤のクライマックスでは三回ぐらい全滅した。メジャーなゲームしかやっていないライトゲーマーなら、多少地道な作業が必要になったと思われる。正直なところを言うと、ちょっと難しすぎると思う。一回全滅した時点で、そうかもっと主人公たちを強く育てないと、という発想と楽しみが出来る人でなければ遊べない。せめて、もっと脇道を増やすことで、自然とレベルアップする仕組みを作ってほしかった。今回はほぼ一本道で、船を手に入れた直後とか、空を移動できるようになった直後に、一応の寄り道が出来るようになってはいるが、行ける場所が限られているのでいまいちだった。

    仲間と会話できるモードがついたのはとてもよかった。プレイ間隔が開いたときに、どこまでやったか忘れた人のために、仲間の会話で大体わかるようになっているのがいい。仲間のキャラが楽しいし、会話もいい感じ。好きなときに会話を聞けて、攻略だけ進めたいときは聞かなくてもいい。ただ自分が思ったのは、自分は基本的に全種類の会話を聞きたかったので、新しい会話が聞けるようになったときに自動的に会話モードになるような設定が欲しかった。

    どのキャラもそんなに大した魅力があるわけではないが、会話モードによってそれぞれの個性が楽しめたのは良かった。登場人物の中で私の好みはというと、ヤンガスだろうか。どの人物もステレオタイプに当てはめようとした苦労のあとが見えるが、ヤンガスは楽しいキャラなので普通に笑える。悪漢だけど義理人情に厚く善い人で、自分は頭が悪いと思っているが妙に理屈っぽいところがあっていい。こう説明するとこのキャラはいままでにない個性を持っているのかもしれない。

    5か6から、やりこみ用の隠しダンジョンというものが作られるようになった。私はもうやりこみをするような歳じゃないので、一度クリアしたらきっぱりやめてしまうのだが、一本のゲームソフトを大切にプレイする子供にとってはとても重要な要素だと思う。それとも今の子供もお金があるからやりこみは一部の人しかしないのかな? とまあそんな一部のマニアを喜ばせるためという位置付けだったはずの隠しダンジョンが、今回はなんと真のエンディングを見るための条件となっているのだ。さすがに全部攻略しつくす必要はないので大した手間ではないのだが、最初のエンディングと真のエンディングではまったく意味が変わってくる。今回やるからには真のエンディングを見る必要があるだろう。ネタバレになるのでここで詳しくは書かない。伏線が見事につながって、あっという真実が浮かび上がる。なるほどねぇ、こうじゃなきゃドラゴンクエストなんていうタイトルにはならんよねぇ。って感じ。

    でサブタイトルのほうの呪われし姫君なのだけど、とあるファンサイトの投票を見てもこの姫の人気がかなり低い。絵に描いたようなプリンセスで、さすがに現代の若者にはウケるはずはない。堀井雄二との世代間ギャップが浮き彫りになってしまった。でもまた時代が流れてここに戻るのかもしれないなぁ。いまがちょっとひねくれているだけで。この姫に唾を吐きたくなるような人にとっては、エンディングすら茶番に過ぎなくなるので、出来るだけ感情移入してみよう。

    私がこのゲームをはじめてまもなく思ったのは、全世界のプレイヤーがこのゲームをどう評価するかということだった。ご存知ドラゴンボールの作者である鳥山明の絵は、ワールドワイドで高い知名度を持っている。あの悟空っぽい顔の主人公や、ナメック星人のようなトロデ王が、リアルタイムな3Dで動くゲーム。ドラゴンクエストはアメリカではドラゴンウォーリアーという名前で売っているそうだが、ファイナルファンタジーなどのスクウェアブランドの製品と比べるとそんなに人気はない。ちなみにスクウェアブランドは日本同様賛否両論でもって迎えられており、熱心なファンがかなりいて巨大なコミュニティを作っている。ドラゴンクエストは果たして今度こそ熱狂をもって迎えられるのだろうか。あ、そういえばクロノトリガーも鳥山明だったっけ。でもあれはドラゴンボールっぽくないしなぁ。クロノトリガーは実際人気がある。海外のマニアックなファンはドット絵の頃の作品も大好きみたいだし。

    ということをずっと考えていたのだが、最近になって鳥山明が別のRPGのアートデザインを手がけるという発表があった。ファイナルファンタジーシリーズのプロデューサーだった折口という人が興した会社で作るらしい。ブルードラゴンという名前だそうだ。またドラゴンですか。今度は XBox の次世代機だそうだから、マイクロソフトが全世界への展開を狙っているのだろう。あのドラゴンボールの絵というだけで大きなヒット要因になるので、いままでやらなかったことが不思議なくらいだ。

    (最終更新日: 2014年10月6日 by ひっちぃ)

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