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    山本直樹 (太田出版)

    傑作(30点)
    2007年3月19日
    ひっちぃ

    アニメタッチのエロマンガを切り開き青少年マンガにも持ち込んだ巨匠・山本直樹の短編集。結構難解な作品やお気楽な作品ばかりだが、劣情に流されるさまをエロさ十分の素晴らしい感性で切り取り描かれる。

    山本直樹は私の大好きな作家の一人だが、色々考えさせられるばかりで、何か自分のためになる答えのようなものをもらえないので、読むといつもとてもやきもきする。そこが魅力か。

    「学校」は題名どおり学校を描いており、学校の中で起きたいくつかのごく小さい性的な出来事がシャッフルされて出てくる。素足を渡り廊下の水場で洗う少女、レズる女子水泳部員二人、…なんかもう説明も面倒なのであとは省略する。一つ一つの出来事の描写は話にもなっていない断片なのだが、それらがシャッフルされることで、学校の中で渦巻く欲望というか強い想いが熱気のように立ち上り、校舎にこもってむんむんした感じがする。ところがそんな様子を作者はトイレの床に広がる血と降り止まない雨で暗喩しているのはなぜだろう。分からない。

    「渚にて」「ファンシー」は、一言で言ってしまえば女のいい加減さを表現した作品だと思う。「いい加減さ」で表現しきれない部分を作者ならではの感性で描いているところが魅力か。

    「青春劇場」は付き合う女性がいるのに床上手な男のうまさに離れられないノーマルに近いホモ(バイ?)の男を描いた気楽な作品。原作者が別にいるらしいが、こういうボーダーラインに切り込む着眼点が素晴らしい。

    「いいわけ」は能天気なエロギャグマンガ。遅刻しそうになって大慌てで出かける女子高生に次々と出会い頭に不幸が襲い、性的な要求にこたえていく。エロくて笑えてコンパクトにまとまっていて素晴らしい。最後のオチも良かったが人によっては不愉快かも。

    「素晴らしき新婚旅行」は初夜に女に振り回される男の内面の葛藤を描いた作品。あんまり面白くもエロくもないけど、女を御せないことの微妙な機知が描かれている。

    「鶏男」はちょっと意味不明で読み込めなかった。

    「プノンペンの秋」は男二人に気軽な性行為を求められる関係にあるメガネで細身小柄の女の様子を描いたほぼ純粋なエロマンガ。体の線とか最高。

    実は私は今回再読だった。1998年に文藝春秋から出ていたのが2006年に太田出版から再版されたのを今回読んでいるのだが、気になって本棚を探してみたら文藝春秋版も家にあった。笑うしかない。

    今回本作を持ち上げたけど、読んだことが記憶に残らない作品だってことは実際どうなのだろう。本作はいい作品なのだけど、作者が現実の何かを切り取ることに重点を起きすぎて、作品世界の構築がほとんど行われていないのだと思う。だから、あの作品いいよねー、と語るタイプの話がこの中にないのだろう。

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