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    谷川流 (電撃文庫)

    傑作(30点)
    2007年3月25日
    ひっちぃ

    気づくと血のついたナイフを持って雨の中を傘もささずに帰宅の途についていた高校生の主人公・神田健一郎は、家でもう一人の自分と対面する。この異常事態に、幼馴馴染みの隣家の妹の原因不明のふさぎ込みと、隣町で起きた謎の幼女誘拐事件が絡み、二人の神田健一郎は謎好きの目立たないクラスメイトの少女に協力を懇願し、何が起きたのか突き止めようとする。

    谷川流の「学校を出よう!」シリーズの第二作目。本作はどうやらEMP学園という超能力を得た子供たちの学校を扱ったシリーズの二作目だが、前作とのつながりは背景と二人の登場人物おらず、終盤に出てきて種明かしと狂言回しをするだけだ。

    ほんの少しだけネタバレになってしまうが、本作はタイムトラベルものの作品である。三日前と三日後というごく近い未来と過去からやってきた主人公二人がいて、未来から来た方は都合よく記憶を失っているので何も分からない。そのあいだに一体何が起きたのかを手探りで探していくのが本作の主要なストーリーとなる。

    読んでいて非常にワクワクした。小説を読んでこんなにワクワクしたのは久しぶりだった。真実がどうなっているのかとても期待が高まってページを繰る手がもどかしかった。だがそれだけに、この物語の構造に納得している人はどのくらいいるのだろうか。煽られるだけ煽られて、実に大したことのない話だった。

    ただ、二人の少女が主人公を想う気持ちはとても感傷的だ。ここに感傷できるかどうかで本作の価値は変わってくる。私はある程度ジンときた。ただ、そのうちの一人の少女については結局本作では何も語られず、失われた記憶とともに真相は闇の中である。本書についての他人が書いたレビューをいくつか読んでみたら、この点について知りたかったと書いている人がいた。私もちょっと同感なのだが、あえて語らないところに作者の謙虚さと演出があるのかもしれない。

    トリックとか謎解きが好きな人には本作はいまいちだと思う。だが私みたいに非日常な日常が描かれる長編が好きな人には印象的で記憶に残りそうな良い作品だと思う。

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