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    花輪和一 (青林工藝社)

    傑作(30点)
    2008年4月1日
    ひっちぃ

    狩猟に使う本物に近いモデルガンを不法所持して逮捕され懲役三年の実刑を食らって刑務所に服役した漫画家の花輪和一が、刑務所での生活を気負いなく描いたノンフィクション漫画。

    私は作者の花輪和一という人の作品をほかに読んだことがないのだが、あとがきを漫画評論家の呉智英が書いているぐらいだからそれなりの漫画家なのだろう。

    出た当初からこの作品は漫画好きな人たちの間で評判になっていたように思う。だから私も気になって読んでみようと思ったのだが、値段が高すぎるのでそのときは買うのをやめたのだった。しかし私の好きな漫画家の鈴木みそが推薦してたので、高くても買って読んでみることにした。

    普通に面白い。淡々と描かれている。写実的。作者の円熟さのなせることだろう。一方で自然に感情的な面もある。何をするにも毎度毎度刑務官に「願います!」といわなきゃいけないことを心から面倒がる描写がある。刑務所という特殊な環境下にあってここまで普通の感覚を維持していることがすごい。普通の人だったら屈辱に打ち震えるか諦めるかするところだろう。普通じゃない感覚を持っているからこそ、ありのままを描けるのだと思う。すばらしい。

    とはいってもこの作品自体に何か哲学や大した物語があるわけでもなく、あるのはただただリアリズムだけだ。このリアリズムをどれだけ楽しめるかによってこの作品の評価は変わってくるだろう。多くの人にとっては一生縁のないファンタジーであるとも言える。

    私の正直な感想は、読む前に抱いていた期待が大きすぎた。私はどのへんを期待していたのだろう。人間性がもっと染み出してほしかったのだろうか。この作品は服役囚よりも刑務所の仕組みに比重が置かれているので、その点少々期待が外れたのかもしれない。だが作り物のドラマ性なんかよりすごいものがこの作品にはある。

    絵は写実的で独特なタッチ。これは期待通りだった。最近の漫画に慣れている人には厳しいだろう。

    単行本は1,600円もするが、本屋で見てみたら文庫にもなっていて760円で買える。文庫だと絵が小さくなるが、そこまで絵にこだわるほどのものでもないと思う。そりゃ絵は大きいほうがいいことは確かだけど。

    誰にでも勧められる作品ではないが、いまの自分の日常に閉塞感を感じている人はぜひ読んでみるといいと思う。

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