流出者 ナガレモノ
鈴木みそ (エンターブレイン)
まあまあ(10点) 2008年5月24日 ひっちぃ
ゲーム業界その他のルポマンガを描く鈴木みその最新作品集。色んな業界の展示会の模様を2ページで毎回紹介する連載「おひろめ」、Macで仕事をする方法やそれがどのように製版されるのかを紹介した「デジタルなみぞ」など。
オビ通り「器用貧乏」な人だよなあ。芸達者で何でも描けるんだけど、何を描いてもメジャーになれない。ルポマンガの質は一流なんだけど、ルポ自体のパイが小さいし、掘り下げではなく一般的な感覚を切り取るノリとセンスの人なので多分あまりルポとしては評価されていない。そんな人のこんな作品。
でも私は大好き。
この作品も特にこれまでの作品とあまり大きな違いはない。質が保たれていると思う。扱っている範囲が広くなっている。進むべき方向として正しいと思う。
詰め込まれている内容に比して本が小さいのでゴチャゴチャしている。もっと大きな版にすべきだったのではないかと思うのだが、そうすると値段が高くなるので小さくしたのだろうか。
一つ気になったのは、ワンルームマンション経営を扱った「金持ち兄さん貧乏兄さん」に毒がないこと。本気で感化されたのだとしたらこの人も老いたものだなと思う。雑誌の方針で毒が抜かれたのだろうか。特にレバレッジを効かせて借金して自己資金の利回りを上げるところの描写は、これで入居者が入らなかったらマイナスにもなりかねない危険性があるはずなのに、素直に感心するだけで終わっている。
あとこの人の作り話はあんまり面白くないかも。クマ一家は所々笑える業界ギャグストーリーマンガだが、作り話だけに注目するとイマイチさを感じる。クマのおとうさんが任天堂かソニーかどっちにつくかで真剣に悩むのは面白いんだけど。
とまあ多少の文句はあるが、単行本が出てくれるだけで嬉しい。多分大多数の人にとっては、文字がごちゃごちゃしたマンガだなあと思ってあまり見向きもしない作品だと思う。この人の方向性自体が中途半端なんだろうな。少ないページにごちゃごちゃ埋める仕事はしないで、ゆったりしたページで描いたほうがいいと思う。
この人の作品で「あんたっちゃぶる」と「大人のしくみ」が絶版になっていて古本屋で探しているのだけど見つからないなと思っていたら分野ごとに再編集されて復刊された。できればもとのままで復刊してほしかったけど、新しい読者が手に取りやすいのであればそれも仕方ないかなと思う。
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