走って、ころんで、さあ大変
阿川佐和子 (文春文庫)
傑作(30点) 2008年9月4日 ひっちぃ
テレビ朝日「TVタックル」でビートたけしの横にいて歳不相応にはしゃぐ元アナウンサーでエッセイスト・作家の阿川佐和子が1989年から週刊文春で始めたエッセイ連載を単行本にまとめたものを文庫本にしたもの。
この人の特徴は大体以下のとおりだ。
・父親は海軍大好きな作家の阿川弘之
・父親の知り合いの縁でニュース解説番組にアシスタントとして呼ばれて活躍
・若くて失敗ばかりして可愛がられる人気者だったが徐々にお姉さんキャラに
・恋愛や見合いを繰り返すが結局行かず後家に
・歳をとっても心は若い女のままでおじさんのアイドル
・美人ではないがかわいい系(今は年相応だが)
でもって慶大卒で海外に留学経験もある。IQも高そうだが何よりEQが抜群に高いんじゃないだろうか。なにせお姉ちゃん好きのビートたけしが自分の番組に呼んでいるぐらいだ。大竹まことなどの年配の悪親父たちを相手に小気味よくやりこめるのが魅力的だ。
作家の娘という出自がそうさせたのかどうか知らないが、エッセイや小説まで書いて著作は20冊以上になる。前置きが長くなったが今回取り上げた作品はそんな阿川佐和子のごく初期の随筆集である。にしては文章の完成度がそれなりに高い。
エッセイというのは概して自虐的になるものだが、作者の自虐ぶりはカラッとしていながら思い切り良く自分の傷を披露している。三十代後半の独り者の女性が家に帰ったらぬいぐるみに声を掛けてまわるとか、かつての見合いの失敗談を控えめながら面白く語る。仕事仲間の男たちに「子供だけは産んでみたいのよね」と言ったら、その中の一人がこう言う。
「そうか、佐和子さんがそんなに子供を欲しがっているとは知らなかった。よし、みんな、協力しようじゃないか。ジャンケンして、『負けた』ヤツが父親だ」
ここでプツリと文章を切るところもなんともいえない。
父親が有名作家なだけに、色々な有名人が家に訪ねてくる。そんな彼らの隠れた面白いエピソードもまた魅力的だ。といっても多少古いので私の世代ではあまり知らない人も多かった。
父親がまた面白いキャラをしている。通称瞬間湯沸かし器なのだそうだ。威厳はあるがみみっちくて、しょうもないことで嫌味ったらしく娘に当たるところがウケる。
いまの世代でこの人と比べられるような人はいるのだろうか。いないだろうなあ。
この人は自分が結婚しないのを自分で笑い飛ばしているが、実際のところはどうなのだろう。これだけ魅力的な人なのだから結婚したければいくらでも相手はいたと思う。だからやはり何か心の奥に秘めた何かがあるのだろう。その秘めたる何かを語るつもりがない限り、自虐ポーズは商売のタネと思われてもしょうがないと思う。
普通に読んで楽しいエッセイだった。腹を抱えて笑うほどでもなく、ためになる知識が詰まっているわけでもないが、こういう魅力的な人が自分の身の回りにいたらなあと強く思う。本を読んで友人を作った気になるのはどうだろう。
(最終更新日: 2013年9月24日 by ひっちぃ)
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