不気味で素朴な囲われた世界
西尾維新 (講談社ノベルズ)
まあまあ(10点) 2008年9月20日 ひっちぃ
主人公の中学一年生の少年は、学校という囲われた世界に飽いていた。彼は、自らの姉を含めた校内の奇人三人衆や、孤高の一人奇人病院坂迷路と交流し、何かが変わることを願っていた。そんなある日、学校内で殺人事件が起きて、彼は犯人探しを始める。萌えミステリー小説。
西尾維新の「きみとぼく」シリーズということになった第二弾。第一弾は「きみとぼくの壊れた世界」。これって「きみとぼく」じゃなくて「世界」シリーズなんじゃないの? と思ったがどうなのだろう。前作が面白かったので、まだ読み途中だったときに続きを買い足した。
今回は結論からいうと終盤だけぐいぐい読んだがそれ以外はちょっといまいちだった。ギャグは要所要所で冴えていて面白かったのだけど、肝心の展開やキャラ萌えが悪かったと思う。
この作品の核となっているのは、時計塔で起きた殺人事件というものを皿の上に乗せて、メタなミステリ分析を披露している部分だと思う。ミステリをほとんど読まない私でも(といってもルパンシリーズの子ども向けのは結構読んだっけ)、確かに今回の殺人事件はあからさまにミステリをおちょくっているというか、これも歪んだ愛なんだろうなというぐらいに色々なツッコミを入れている。つまらなくはなかったが、これをもって作品の核とするには私には物足りなかった。ミステリ好きには面白く思えるのかも。
キャラ萌えについては、まず主人公の少年の実姉である変人「こぐ姉」との序盤の会話に始まり、小学生の頃にアメリカ留学していて頭も良ければ体格も良く女の子からもモテる男「一人生徒会」という二つ名を持つ崖村先輩にガシガシ突っ込まれたり、なぜか言いたいことの意味を正反対にひっくり返してしゃべることを習慣づけている少女「ろり先輩」をいじったり、同級生で相手の嘘を見破れる生徒会書記の背の高い少女との甘酸っぱい会話をしたりと、それなりに楽しめはした。しかしどれも小粒な感じ。
一番大きな問題は、今回の二人称キャラである病院坂迷路を私はほとんど受け付けなかった。この作品の表紙に描かれているおかっぱで女の子なのにガクランを着ているキャラがそれなのだが、大きく二つの点でありえない人物になっている。まず、ものすごい奇人で、所属する部活動の人々がみんな辞めてしまい、同じクラスの生徒たちが残らず退学したという設定。まったく説得力がない。変人にあこがれるという主人公の性格を色づけているだけか。そしてもう一点は、彼女にはセリフがないこと。すべて表情で語っていて、それを主人公が読み解くことで対話が成立しているとしていること。新しいけど新しいだけなんじゃないだろうか。これ脇役にしといたほうがよかったんじゃない?
私はこの病院坂迷路がこの作品の謎に大きく関わってくるのかと思ったのだが、ぜんぜんそんなことはなかった。あ、これネタバレなんだろうか。いや少なくともガッカリ度を下げてくれるだろうから言っておいたほうがいいだろうな。この病院坂迷路の人格って実は主人公の少年が勝手に想像しているだけなんじゃないかと思っていたのだが、単に作者の遊び心的な設定だった。
最後に事件の真相が語られる。ここでやっとすっきりする。ミステリの醍醐味。十分面白い。しかし作者の言い訳には納得できない気持ちが残る。殺人事件の動機の説明が結構意味不明。頭では理解できなくはないのだけど、これじゃあミステリをおちょくる資格がないんじゃないだろうか。これも含めてセルフパロディか? うーん。
色々批判中心になってしまったが、読んでいて面白い作品ではあったと思う。この人の書く文章は多分まったく構成がなくても面白い。この作品はそういう最低限度のレベルの作品なんじゃないだろうか。
(最終更新日: 2008年9月20日 by ひっちぃ)
|