やっぱり心の旅だよ
福満しげゆき (青林工藝社)
まあまあ(10点) 2008年11月25日 ひっちぃ
鬱屈した青春や売れない漫画家生活や個性的な奥さんのことをエッセイマンガに描いて限定的にヒット中の作者による、駆け出しの頃に描いていたエロマンガもどきを中心に収録した短編集。18禁マークがついておらずオビに書いてあるようにエロマンガとしてはどうかと思うが作者独特の感性に満ちた作品になっている。
まずエロマンガとしては、絵がワンパターンなのが最大の欠点とはいえ肉感的でとてもいいと思う。こういうのは好みが大きいだろうから単に私と相性がいいだけなのかもしれない。丸みを帯びたシンプルな線が艶かしい。エロマンガにありがちな強引なストーリーもいかにもそれっぽい。作者が自己卑下するほど質が悪いことはないと思う。
でも妙に主人公が悩みがちだったり、妙に力強いオヤジが出てきたり、逆によわっちいオヤジが女の子に逆襲されて泡を吹いて気絶したりと、意味不明で笑える要素がふんだんに盛り込まれてる。あ、これ、盛り込んじゃいけない要素なんだろうな、商業的には。そのおかげでこうやっていま読んで楽しんでいる人が多そうだから逆に良かったんじゃないだろうか。
でもやっぱりエロじゃない作品の方が洗練されていて面白い。
「新世紀僕はどうなる」はバイト青年があるときタイムマシンの研究をしている冴えないオヤジを手伝うことになる話。バック・トゥ・ザ・フューチャーとかのSFのベタベタのパロディとか、青年のすっとぼけた勘違いが良かった。
「ツキノワグマ」は純粋なSF作品。家に謎の宇宙人が訳も分からず侵入してこようとしてそれを撃退する話。意味不明だけどスリルがあって楽しい。話の内容的にそんなに新しくないようにも思うけど洗練されてる。
「やっぱり心の旅だよ」は一時的に浮浪者のような生活を送っているオヤジを淡々と描いている。この作者ってなんでこんなにオヤジをよく描くんだろう。若い頃に酒をおごって浮浪者と少し仲良くなった経験から来ているのだろうか。意味が分かりにくいけど多分人生のレールを踏み外した作者が作者なりに世間に問いかけをしているような感じがする。
この手の作品は、作品の方から読者を引き込んでくれることを期待してはいけないので、積極的にマンガを楽しもうとする人には勧める。
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