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  • 不気味で素朴な囲われたきみとぼくの壊れた世界

    西尾維新 (講談社ノベルズ)

    傑作(30点)
    2008年12月27日
    ひっちぃ

    臨時講師として派遣されてきた英語教師が、私立の名門女子高で連続殺人事件に遭遇する。シリーズ二作目から14年の時が経ち、異常な学生だった串中弔士はほとんどそのままの人格を持って倫理教師をしていた。この二人が事件の謎を解こうとする。

    …のだが、それはあくまでミステリーの体をとるために過ぎない。本作品の核は串中弔士のぼやきというか諦念にある。

    語り部の英語教師が最初のほうで言う言葉がそれをまとめている。職員室は教室と変わらない。大人がいるか子供がいるかという違いしかない。学生たる子供は授業に縛られて自由に行動できなかったが、同様に大人だって行動を制限されている。また、大人社会だって成熟しているわけではなくて、くだらないこと子供っぽいことにあふれている。

    なんというか、これはアンチ青春小説なのだろうか。若い頃に一生懸命になっていたこと、大切に思って守っていた価値観を、大人になってから冷静に振り返ってみせる。読んでいるとなんとも言えない気持ちになってくる。なかなか純文学的で読後にズシンとくる。これは学生の読者には分からないだろうなあ。

    一応ミステリー小説ということになっているだろうからミステリーの要素について述べると、犯人を推理する楽しみは少しはあると思う。といっても、推理できないことはない、というぐらいに微妙なところか。たねあかしまで自力でたどり着ける読者はいないだろう。だがタネは読み物としては割と面白いと思う。やっぱり串中弔士が関係しているところなんかは期待を裏切っていない。

    エンターテイメントとしては、魅力的な登場人物がほとんど出てこない。女子高を舞台にしながら女子高生にほとんど焦点が当たっていない。これって大丈夫なんだろうか。串中弔士は面白いキャラだが、これだけでは満足できない。

    串中弔士は英語教師にこんなことを言う。自分たちの知らないところで、昔の自分たちと同じように連続殺人事件を独自に調べている学生たちがいるんだろうなあ、と。他人事だ。自分はもう主人公じゃないんだ、とでも言いたげな言葉だ。

    西尾維新的な無理やり設定も相変わらずだ。英語教師は名を病院坂迷路と言うが、これはシリーズ二作目に登場した同名キャラの「バックアップ」ということになっている。「バックアップ」が何を意味するのか分からない。本家とか傍流という意味不明な言葉で説明がなされるが説明になってない。

    物語としてはとても微妙なのだが、大人の読者ならきっと心に来るものがあるはず。本シリーズの愛読者なら読んで損はないと思う。

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