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    米原万理 (光文社文庫)

    傑作(30点)
    2009年6月10日
    ひっちぃ

    下ネタの小話で一つ一つことわざを挙げ、それと似た世界中のことわざを紹介し、最後にアメリカ批判や社会風刺や自嘲で結んだ小品集。

    ロシア語通訳から作家へ転進しガンで亡くなった毒舌家、米原万理が書いた本。週刊誌連載かと思ったら初出が単行本としか書かれていないのでよく分からない。

    目次を見るとダーッとことわざが並べられていて、その一つ一つが見事に三段構成になっている。最初の下ネタ小話のつかみが最高。若手お笑い芸人天津木村のエロ詩吟もあれはあれで面白いのだけど、やっぱりちゃんと話にスジがあって見事にオチまでつく本書の小話の数々は見事としか言いようがない。

    二段目はとにかく作者の幅広い教養で世界中から似たようなことわざを引っ張ってきていて、洋の東西を問わずアフリカからも出典してきており、これはこれですごいのだけどちょっと退屈。地域によってことわざに色んな特徴があって知的好奇心をそそらなくもないのだけど、紹介の仕方が羅列なので食べきれない。

    三段目が圧巻。ブッシュ批判や小泉批判がすさまじい。田中宇の記事やネットの情報なんかが好きでよく読む私にはそれほど目新しい情報はなかったが、これでもかこれでもかと事実を並べ立ててアメリカの強引なテロ戦争を批判している。作者の父親は日本共産党の幹部で、新聞「赤旗」の編集長から国会議員にまでなった人であり、親の影響もあるのだろうか。作者は五十代でガンで死んだので謀殺ではないかと信じたくなるほど筆鋒が鋭い。

    大したことじゃないけど、「参謀の指揮のもと…」と書いているが誤りで、参謀には指揮権がない。医学や航空や自動車など様々な専門分野での語学的知識を職業的必要性から生涯勉強し続けた作者の膨大な知識も、さすがに民間通訳が呼ばれない軍事関係には及ばなかったと見える。

    この人は長く生きていたら大学の先生になってくれというオファーが殺到しただろうな。本人は望まなかっただろうけど。でも、反社会学講座のパオロ・マッツァリーノが言うように、学者はこのぐらいとまではいかなくても自分の研究内容を人の興味を引くよう面白く紹介してほしいものだと思う。地道な基礎研究をしている人は除いて。特に社会科学方面の人は。

    (最終更新日: 2009年6月10日 by ひっちぃ)

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