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    佐々木敏 (週刊アカシックレコード090813)

    傑作(30点)
    2009年8月13日
    ひっちぃ

    インターネット文化の中で、ソフトウェア(文章や映像も含めて)をなんでもタダで提供しあえば経済的価値が生まれる、というようなウィキノミクスという考え方はむしろ経済を縮小させて世の中を衰退させているという特集記事。

    政治経済の事件を「予言」すると銘打って発行しているメールマガジン「週刊アカシックレコード」から。

    作者のこの指摘はもっともだと思う。そりゃそうだ。お金のやりとりが発生しないのだから、経済的価値なんて生まれようがない。

    ただ、経済的でない価値なら別だ。お金が発生しなくても価値が生まれるならそれでいいじゃないか。むしろ、経済的価値は手に入れるためにお金が必要になるが、経済的でない価値にはお金が要らないので、貧しい人にとってはそのほうが価値の大きい世の中になる。

    ウィキノミクスなんて文科系(経済)を知らないバカの言うことだ、と実に気持ちいい啖呵を切ってくれる作者だが、なんでもフリーにしていこうという文化はそもそもが文科系(経済人)の横暴が元で発生したのだ。

    たとえば私はソフトウェアの専門家なので、個人的にプログラミングをすれば立派に売れるものが作れる(はず)。でも私はそんなことはしない。なぜか。売れないから。なぜ売れないか。流通、広告、営業で勝負できないから。代わりにそれをどこかに委託したら手数料を取られてほとんど残らないから。世界有数のソフトウェアを作っている一握りの人たちですら大して儲かってないのに、それ以下の人間が一体どれだけ儲けられるのか。逆に、本来なら競争力の低いはずのものが、強力な流通、広告、営業によって経済的価値を与えられてバラマかれ、その対価の多くを文科系が独占している。

    だから言ってみれば、なんでもフリー文化というのは中間搾取への対抗手段なのだ。なんでもフリーになって売るものが減れば、それに寄生している悪徳な流通業者を衰退させることが出来る。そうするともちろん自滅行為になってしまうけれど、経済全体が縮小すればデフレになって格差不均衡は多少是正される。

    でも本当はこんなやけっぱちなやりかたはよくない。ちゃんとそれなりの努力と頭と時には運なんかもありながら経済的価値を得られた方が、みんなせっせと価値を作るようになるからだ。そんな理想的な社会から抜け駆けをしてしまった文科系バカがいまのダメな社会を生み出してしまった。しかもそれはとどまるところを知らず、なんでもフリー文化に対してフリーライドすることで寄生して儲ける輩まで生まれた。

    というような側面からしても、資本主義の限界が来ているんじゃないかと思ったりした。

    いま2ちゃんねるなんかでよく言われているのは、ネットにさえつながっていれば他の娯楽なんてどうだっていいや、という考え方だ。話題がないと面白くないと思うかもしれないが、むしろ彼らは大して面白くない作品を実況して自分たちで面白くしているぐらいだ。フリーな文化ではハリウッドは成り立たないと作者は言うが、フリーでなくてもハリウッドはつまらなくなってきているし、そんな中でも彼らは実況で勝手に盛り上がって楽しむことが出来ている。そのうち、ネタとなる作品すらメジャーなものである必然性がなくなるかもしれない。

    この状況をなんとかするには、まず対価がちゃんと支払われること。その意味では、メールマガジンの有料化は大いに結構なことだと思う。でも誰がその対価を払うのか。その前に、きちんとした対価をもらっていない派遣労働者などのワーキングプアからなんとかしなければならないのではないか。私だって年収一千万あったらこのメールマガジンに月千円払ってもいいと思うのだけど。

    フリーはよくない、だから有料化する、似たようなメールマガジンと比べて安すぎてもダンピングになる、なんて言って作者は自分のメールマガジンをそれなりの値段設定にしたいみたいだけど、私は自分が唯一購読している週刊文春の週350円を基準にして決めるので、多分このメールマガジンが有料化しても定期購読しないと思う。だから私はこの人にはアンチ資本主義側にいて欲しかったなあ。

    資本主義の限界というのはちょっと言い過ぎたか。アメリカ型(競争絶対)、旧来日本型(協調)の衰退は明らかだけど、北欧型(高福祉)ならまだ大丈夫なような気がする。元記事ではLinuxの作者リナース・トーバルズのことを引き合いに出しているが、彼が高福祉型の国の出身であることも一つの示唆かもしれない。

    [参考]
    http://www.melma.com/
    backnumber_42082/

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