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  • 大穴(原題: Odds Against)

    ディック・フランシス 菊池光=訳 (ハヤカワ文庫)

    まあまあ(10点)
    2010年3月18日
    ひっちぃ

    レース中の事故で騎手生命を絶たれ、競馬関係を中心に調査する探偵社に拾われて味噌っかすのような日々を送っていた元名騎手シッド・ハレーは、あるとき元海軍将校でもある舅のチャールズに呼ばれ、なじみの競馬場がのっとりの危機にあっている可能性について伝えられる。事故で負った醜い左手のケガを抱えた小男の主人公が、自らの鬱屈した生き方を省みて、周囲の人々の助けを得ながら陰謀を阻止しようとする。海外ミステリー小説。競馬シリーズの二作目。

    作者はつい先日亡くなったディック・フランシス。私にこの本を薦めた海外ミステリー好きの知人はこの作者を一番好きな作家だと言っていた。ちなみに二番目に好きな作家はジェフリー・ディーヴァーだそうだ。

    まあまあ面白かった。ストーリーが分かりやすい。海外の作品にありがちな、やたら細かい描写から作品世界を構築するようなうっとうしさがなく、描写が簡潔で読みやすかった。

    ただ、探偵社の仲間たちの描写がいまいちだなあと思った。気のいい相棒格のチコや中年女上司のドリィの生ぬるい馴れ馴れしさのある距離感。探偵社のボスのラドナーが主人公をどのように見ているのか、構図からすれば明快なのだけど、描写が中途半端で少しイライラする。

    ヒロインが出てくるのだけどこれもなんだかなあ。とてもリアリティのあるキャラクターなのだけど魅力がない。歳も食ってるし。そもそも主人公は既婚者で、別居中の妻がいてその妻が明らかに悪女なのだけど、それを認めたがらない主人公の思考もイラつく。ってわざとこういう描写にしているんだろうか。

    唯一、舅のチャールズがとても魅力的で温かかった。主人公の夫婦は実質破綻状態なのに、舅は主人公のことを高く買っていて良い関係が続いている。

    ちょっと昔のイギリスの競馬場を中心とした街並みやそこに住む人々の生活が頭に浮かぶようで、この世界観にひたれたのは心地よかった。

    最後に主人公に一つの選択肢が与えられるところが、どこかで読んだような筋書きだったけれど良い感じがした。でもなんだか浮いているような気もした。ひょっとして翻訳が悪いんだろうか。とにかく読みやすいので訳が悪いとも思えないのだけど。

    雰囲気とストーリー重視の人には勧められる。キャラ重視や内面重視の人にはちょっとマイナスか。どんな人でも読んで普通に面白い話ではあると思う。

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