戦場のヴァルキュリア
セガ
傑作(30点) 2010年6月1日 ひっちぃ
第二次世界大戦のヨーロッパをモデルにした空想世界で、帝国軍と連邦軍が大戦を戦っていた。中立だった小国ガリアに突如、自らの野望を抱く準皇太子が率いる帝国軍が侵攻する。先の大戦の英雄を父に持つものの生物社会学を専攻しおだやかな生活を送っていた青年ウェルキン・ギュンターは、かつて父が乗っていた戦車を受け継ぎ、義勇軍の小隊長として戦う。トゥーンレンダリングを使った水彩画風の3DCGが美しい、独特のアクション性を持った半リアルタイムなシミュレーションRPG。
ゲームを紹介した雑誌に掲載されていた画面だけ見ても結構衝撃的だった。トゥーンレンダリング自体はそれほど難しい技術ではなく、法線の急激な変化を輪郭と判断して強調するなど、原理が分かれば大体納得がいくのだけど、そこからさらにアイデアを発展させて計算でやわらかくて暖かい質感を出しているのには驚かされた。セガは以前にもジェットセットラジオというゲームでトゥーンレンダリングをかなり早くから取り入れていた。と思ったらWikipediaによると開発は別の会社がやっていた。
いきなり脱線するけど、ほんと3DCGの技術は日々進歩していて、インプレスのGame Watchの西川善司という人の連載記事を読むとすごすぎてクラクラする。高校で習う行列が基本で、数学のかたまりだ。ハードのパフォーマンスの進化もそうだけど、プログラマブルシェーダーが生まれたことで自由度の高い演算をさせることができ、リアルさ一辺倒ではない様々な表現を模索できるようになった。リアルさを追求する方向でも色々とアルゴリズムとその実装が開発されていっている。この分野はもはや大手と専業メーカーしか開発できず、よそのエンジンを使うというのが随分前から行われている。
3DCGの質感的な技術だけでなく、モデリングの完成度も非常に高い。第二次世界大戦時のドイツ軍の戦車のかっこよさをとてもよく再現している。登場人物もややアニメっぽく親しみのあるモデリングで、表情豊かにアニメーションする。マンガ風にオノマトペ(擬音)まで3DCGで表現しているのには笑った(戦車のキャタピラ音のキュラララみたいなの)。
このゲームのすごいところはそれだけではなくて、なんとフルボイスで物語が展開する。主要な登場人物だけでなく、戦闘のときにしか出てこないような末端の小隊隊員にも、独自の性格と台詞と声優がついている。
大まかなストーリーは、帝国に攻め込まれた小国ガリアの抗戦、その背景として差別民ダルクス人や古代戦闘民族ヴァルキュリアの謎が描かれる。主人公のちょっとやわそうな青年隊長に最初はつっかかってくる隊員たちも、物語が進むにつれて団結していく。しかし義勇軍は正規軍から疎んじられ、無謀な役目を次々と命じられる。
戦闘はステージ制で、個々のステージはターン制、それぞれのターン(順番)はポイント制で行動するようになっている。味方と敵とで交互にターンをまわし、一つのターンで決められたポイント分を消費してユニット(駒)を行動させたりオーダーを発したりして、敵の特定の拠点を制圧するなどの目標を達成したらステージというかミッションコンプリートとなって次に進める。ミッションとミッションの間にストーリーを見せるシーンがあったり、自軍の軍備を整えたりすることができる。
ユニットには種類があって、大きく戦車と歩兵がいる。戦車は圧倒的な戦力だが図体が大きくて背面に弱点を持つ。歩兵にはまず偵察兵という身軽な兵種が基本となり、近距離の攻防に強い突撃兵、遠距離から狙い打てる狙撃兵、回復や工兵的なことができる支援兵、戦車に対して強い攻撃力を持つ対戦車兵がいる。ユニットは一回の行動でゲージを消費して移動したり一回だけ攻撃などのアクションを起こしたりすることができる。一つのユニットを一回のターンで何回も行動させることができるが、繰り返すごとに一回の行動で使えるゲージが少なくなったり、弾切れを起こしたりする。
なんかゲームの紹介だけでやたら書いてしまったのでそろそろ感想を書く。
キャラクターに魅力があった。特にジャケット絵で目立っていたヒロインのアリシアは、パン屋になるという夢を持っているのでエプロンっぽいかぶりものをしていてとても印象的な外見をしていて、序盤は義勇軍の隊長までやっていて凛々しい。主人公の青年の虫ばかり愛でる天然キャラぶり。無骨で直情的だけど純情な大男ラルゴ。酒場の歌姫で姉御肌のロージー。などなど。これら主要登場人物以外に、戦闘ステージにしか登場しない隊員にもそれぞれ個性的な面々がいて、何人かツボにハマって楽しませてもらった。印象に残っているのは、爆弾魔で引きこもりの少女、性格が悪くて倒されたときに隊長に悪態をつく男、孤独を愛する猟師の女、大男ラルゴを愛するオカマ、分かりやすすぎるコギャル。隊員にはそれぞれポテンシャルという特殊能力があり、個々のキャラクターによって細かくつけられた性格に合わせて戦闘時に能力を発揮したり逆に弱くなったりする。中にはヒロイン・アリシアのそばにいるだけで強くなるというポテンシャルまであり、その能力が発動したときのモーションにボイスまでついていて魅せてくれる。
銃器を撃たせるのが気持ちいい。散発的にライフルを撃つ偵察兵や支援兵、サブマシンガンを連射する突撃兵、パンツァーファウストみたいなロケット砲を撃つ対戦車兵、スナイパーライフルを撃つ狙撃兵、それぞれ銃器に特徴があって楽しい。こちらから攻めて行くだけでなく、土嚢の後ろにひざまずいて敵の侵攻を迎撃するのも頭を使って快感がある。
ストーリーがちょっと残念に思った。ユダヤ人をモデルにしたかのようなダルクス人という人種がいて差別されているのだけど、どうにも不自然に思えてならなかった。こんな露骨な人種差別を描くのは人種差別問題に対して軽く考えすぎだと思う。たまたま読んだサルトル「ユダヤ人」(岩波新書)によると、第二次世界大戦中のユダヤ人が受けていた差別は非常に陰湿で根が深く、かえって表面的には穏やかだった。
敵の司令官の準皇太子はまるで田中芳樹「銀河英雄伝説」に出てくるラインハルトそっくりだった。彼が小国ガリアを攻める動機はとても良かったのだけど、描写が露骨すぎてちょっと引いてしまった。三人の副官はどれも個性的でよかった。でもイェーガーかっこつけすぎ。
戦闘は頭を使ってそこそこ面白いのだけど、攻略法を突き詰めると身もふたもないやり方になってしまうように思えた。真面目にやるのはちょっとばかばかしくなる。あとヴァルキュリア人が強すぎて興ざめする。
ユニットの成長が隊員一人一人ではなく兵種ごとに決められている。シミュレーションRPGにありがちな、最初は弱いキャラを丁寧に育てていくうちにとても強力なキャラに成長するというマゾい楽しみがないのは長所であり短所でもあるけど、遊びやすさという点で言えばこの選択は正しいと思う。
私が買ったのはベスト版で、これには一つ目の拡張コンテンツが含まれているのだけど、その本来の値段800円の割に内容がたったの戦闘1ステージ分だというのが残念すぎる。ストーリーは個性的な脇役たちに焦点を当てた意欲作と言いたいところだけど、ちょっと自慰的で完成度が低いと思った。
いくつか気になる点はあるけれど、それ以上によく出来ているところが多く、プレイする価値は大きいと思う。難易度もそれほど高くなく、模擬戦闘を繰り返せば好きなだけ経験値とお金を手に入れて自軍を強くすることができる。現状プレイステーション3で安心して楽しめる名作ソフトが少ないだけに、本作品はそんな数少ないうちの一つだと言っていいと思う。
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