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    久保ミツロウ (講談社 イブニングKC)

    傑作(30点)
    2010年12月6日
    ひっちぃ

    二十代も終わりにさしかかり、これまで女性と付き合ったことがなく、正社員にもなれずにうだつのあがらない生活を送っていた主人公の男が、これまでに少しだけ関わりがあったもののずっと疎遠となっていた三人の女性から同時に連絡がきて、ついに自分の人生にもモテ期が到来したのかと思ってがんばる話。

    TVドラマ化もされ、作者が実は女性だったという点が特にネットで話題となった。

    まず最初に回想シーンで一人目の女性が登場する。派遣先の会社でおとなしいOLだと思っていた女性と少し音楽の話をしたことがきっかけで、大型野外イベントに誘われて行ってみたら、男友達を伴った彼女がきさくなキャラで話しかけてきて驚く。急に親しくなり手をつないで一緒にライブ会場を見てまわるほどの仲になったものの、同じ会場に来ていた彼女の彼氏と遭遇し、それを知らされた主人公は気まずくなってその場を逃げ出してしまう。実は彼女は彼氏ととても仲が悪くなっていた最中で、結局彼女がその日主人公を連れていたことがきっかけとなって男とは別れていたことを、モテ期到来後に知らされる。要するにこの時に彼女を押せば手に入れられたはずなのにと言いたいのだろう。それなのに結局自信がなくて行動に踏み切れず、誘われた帰りに「良かったらまた誘って」と言うのがやっとで去る主人公を、彼女が心の中で「あいつどこまで受け身なんだヨ」とキレる。

    うーん。これって主人公が悪いの?そもそも男とまだ切れていないにも関わらず主人公を誘って親しくしようとする時点で女のほうに問題がないか?まあ特に女の場合は男を乗り換えるときに交際期間が重なるのは珍しいことではないようなのだけど、それならまずいまの男とうまくいっていないという前提を主人公に伝えておくべきじゃないの?主人公は女と親しくなっていく段階の最中なのに、いきなり男と遭遇して今彼だと言われたらそりゃ混乱する。まあ手馴れた男だったらうまいこと状況を把握するか事態を静観して見守ることが出来るだろうけど、そこまで男に要求する時点でいかに女が現代日本の恋愛文化で楽をしているかが分かる。

    それにこれを言い出したら基本的なことから議論しなければならないのだけど、そもそも男のほうから女を誘わなければならないという原則がおかしい。ということで上の話は女のほうから男を誘っていてそもそも現実ではなかなかレアなケースなのだと思うのだけど、次も誘ってと言うこと自体がそこまで責められることなのだろうか?今度はこっちから誘うよ、と言えれば一番いいのだろうけど、主人公はちゃんと今回の誘いに好意を伝えている一方で、女のほうは主人公に何も伝えていないのだから、誘っていいものかどうか考えるのは自然ではないか。

    なんか作品放置してこのまま男女論を語りたくなるほど腹立たしくなってくるのだけど、とりあえずこのへんにして次に話を進めようか。

    次は飲み会で知り合った、当時処女で照明助手のあまり女を感じさせない女。グルメ関係で共通の関心があることから、女の方からの誘いで日帰りでおいしいラーメンを食べに行く主人公。観光地に寄った二人。主人公は「こーゆートコ彼女と来たかった…」と言う。それに対して女は「フジ君(主人公)みたいに女から何かしてくれるの待ち受けてるようじゃ一生彼女できないよ」主人公は「俺だって好きな女がいたらウミネコ並みに動く」と言い返すわけなのだけど、女は「そんなんじゃ一生童貞だね」と切り捨てる。で、友達以上恋人未満の関係で旅行中揺れ動きまくるわけだけど、主人公が勇気を出して一歩を踏み出したのに、最終的に女の方が拒絶して終わる。

    今回要約しようと思って読み返してみたのだけど、なんか話が分かりにくいな。ここではどうやら女のほうは純粋に友達として主人公と一緒に旅行したかったのに、急なアクシデントで旅館に同じ部屋に泊まることになり、こういう状況になったことを女のほうが責任を感じて一時的に主人公に体を許そうとするのだけど結局寸止めする。でも主人公はそれで少し調子に乗って、モテ期だからと自信を持って自分の感情に従ってグイグイ行くのだけど、最後に拒絶されてしまうという話か。つまり、最初の話は「グイグイ行きなさい」なのに対して、今度の話は「グイグイいっちゃダメ」になっている。作者も意地が悪いねえ。

    三人目の女の話はとりあえず省略する。あとアドバイザー的に郷里の元ヤンキーの女が現れて主人公のことを叱咤激励する。

    で、ネタバレにならない程度にタネ明かし的なことを書くと、一人目の音楽好きの女は「愛されたい」タイプの人。たぶん日本の女性が多かれ少なかれ持っている部分だと思う。求められたら嬉しくて相手のことを愛するようになる。こういう人を相手にするとき、逆に「俺のこと好き?」と訊いてはいけない。自由意志を任されることを嫌う。一方で、相手のスペックはあまり気にならない。ある意味で一番難易度が低いタイプだと思うけれど、自分が相手に好意を持っているかどうかを伝えることに無頓着なので、自信のない男にとっては突撃しづらい相手。

    二人目の照明助手であまり女を感じさせない女は、昔のことを引きずっていて主人公にとっては等身大に近いか下手したら本来は格下の相手なので、その意味で扱いづらい。主人公はがんばって色々と手を尽くすのだけど、向こうが勝手に誤解したりと、色んな意味で難しくて面倒な人。

    最初に省略した三人目の女は、実は行き当たりばったりのきまぐれな性格をしている。こういう相手に対して、「なんで○○なの?」と理由を訊くのは一番良くないのだと作者は言いたいらしい。この女はあるとき主人公に何の脈絡もなくもたれかかってくるので主人公は混乱する。どうやら正解は、特に何も考えずにそのまま行っちゃうことらしい。しかし主人公は最初告白してしまい失敗する。その後も同様の失敗を繰り返していく。彼女にとってそうしたいときにするのが自然で、それは言葉にすべきものではない気まぐれなものらしい。だからといって愛していないわけじゃなくてそれが愛の形なのだと言いたいようだ。

    男って大変だよなあ。ひとごとのようにそう思う。

    ネット上のコメントを読むと、作者が女性であることが意外性をもって受け止められた一方で、むしろ主人公を女にしても十分成り立つ話なんじゃないかという声があった。さすがにそれはないと思うけれど、主人公が「愛されたい」と言うところはさすがに女っぽすぎると思う。男だったら「自分の愛を相手に受け入れられたい」あたりが一番多いんじゃなかろうか。

    男の私が読んで、主人公のドラマが時に胸を打ったり、読んでいて力が入ったりして、主人公の物語としてとても素晴らしいと思う。そりゃないだろうと主人公の立場への共感や男女論的な突っ込みを頻繁に入れつつも、かなり熱を持って読んだ。それに、先に色々と批判したけれど、現代日本の女性についてのとてもリアル(?)で赤裸々な描写、分かりやすく伝えてくれた作者はすごいと思う。

    この人、絵がうまいなあ。登場人物の作画がどれも魅力的で、特に主要な女性三人は完全に描き分けられていて個性的でかわいい。こんなにかわいい女性がいたらそりゃ恋愛したくなるよなあ。現実はそうはいかないのだけど。ついでにブサイクも出てくるけどそれらしくてうまい。

    でもやっぱり作者はこの物語を書くべきではなかったと思う。この作品はとても換えがたい貴重な作品だと思うし、読んで良かったと読者の私は思うのだけど、作者にとってはどうなのだろう。本来ならモテない女、いや女の場合は男から迫られるところまではとりあえずいいとして(いやよくないかwまあともかく)、いかに自分にとって望ましい恋愛関係を得られるのか、真剣に考察するような物語を女性作家は描くべきだと思う。言い寄ってくる男を相手にして駆け引きした気になっている女があとで「愛してるって言ったのはそっちなのに!」と男にキレることを繰り返していては、いつまでたっても変わらないし何も分からないままだ。そうやって一部の男にとってだけ都合のいい状態が当たり前のようになっている今の恋愛文化は、モテない男にとってよりも女にとって不幸な世の中なのではないかと思う。

    モテない男は二次元で楽しくやることにするよw

    (最終更新日: 2013年12月8日 by ひっちぃ)

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