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    西尾維新 (講談社BOX)

    まあまあ(10点)
    2011年1月22日
    ひっちぃ

    高校三年に進学する前の春休み、分不相応な進学校に入って学業から落ちこぼれていた青年・阿良々木暦(こよみ)は、女子生徒の間で話題となっていた吸血鬼に遭遇する。「怪異」という存在を身近に感じるようになった青年の、はじまりの物語。前作「化物語」から始まった「物語」シリーズの続編にして、時系列的に一番最初(?)の話。たぶんライトノベル。

    前作「化物語」で意味ありげに出てきてほとんど何も語られなかった金髪幼女で吸血鬼のなれのはてこと忍野忍、それに主人公がやたらと春休み世話になったといっていたのに何も具体的なことが語られていなかった羽川翼、ついでに廃墟に住まうその道の専門家のおっさん忍野メメとの出会いなんかが明らかになる。

    最初に主人公の独白で主人公の性格的なところが語られる。これ割と大きいと思う。前作「化物語」では、なんとなくアニメの主人公的にそのへんのところがぞんざいになっていて、まあ一人称小説なんだから別にいいのだろうけど、妹たちに責められたり落ち込んだりする主人公にいまいち感情移入できずにスルーして読んでいたから、この作品で初めて色々なことが分かってくる。

    中学の頃はそれなりに活発だったのに、無理して頭のいい学校に入ったばかりに落ちこぼれ、性格まで暗くなって友達が一人もいなくなっていた主人公。友達を作ると「人間強度が落ちる」なんて語っている。成績が学年一位の優等生の女の子、羽川翼とはごくごく偶然出会う。でいきなりパンチラ(パンツが見えること。って解説要らないかw)。謙虚で世話焼きの彼女は、主人公とおともだちになろうとする。最初は拒絶的だった主人公だが…みたいな。みたいなってなんだ。本作品の主題というものがあるとすればこのへんだと思う。まああってないようなものだけど。

    私にとって非常に残念なことに、この作品はいわゆるバトル物だった。吸血鬼になった主人公は戦いを強いられる。詳細は大して意味がないので省く。私という読者がそもそもバトル物が嫌いだということがまず大きいのだけど、作者の西尾維新の描くバトル物が輪を掛けてつまらない。致命的なのは敵に魅力が無いことだと思う。作り物の臭いがプンプンする。妙に自信に満ち、割り切った性格、モダンなスタイル、奇妙なネーミングセンス。特にこの人の横文字のネーミングセンスの無さにはびっくりする。吸血鬼の名前がキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードって…。最初冗談かと思った。特に今回は吸血鬼やハンターという彼我の力関係が分かりづらい戦闘ばかりなので楽しみづらかった。アロハ服のおっさん忍野メメがあんなに強いのも興ざめだった。一方で彼が力を使わず交渉役をするところはとても良かった。

    といっても戦闘ばかりが続くわけでもなく、羽川翼とのちょっとHな交流も描かれる。このあたりの筆の冴えは西尾維新ならでは。恥ずかしがりながらも結構積極的なところなんかこれまた作り物の臭いが強いのだけど、こっちのほうは無節操に楽しんだ。

    にしてもここまで主人公と羽川翼は交流を深めていたのに、なんでこのあと(前作)あんなことになるのかなあ、と思った。まあそれは主人公の性格からいえば自然なことだと思うし、むしろ物語的にありがちな展開(くっついて当然と読者が期待する)のほうこそ現実味がないと思う。

    最初にこの物語が「バッドエンド」だと主人公が語っているところがとてもグッとくる。でもその割にこの結末は悪くないと思った。まあ主人公がそう思っているだけなんだろうな。この主人公の視点というのが本シリーズにとって重要な意味を持っている。たぶん主人公の思い込みもろもろを取り除いたら、たわいもない話になっちゃってると思う。いわゆる主人公フィルター。吸血鬼の感傷がちょっとチープだけどそんなに気にならずに済んだ。

    正直本書の半分以上はつまらなかったけれど、残りは十分楽しんだ。これぐらい楽しめればまあいいかなと思う。

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