みつどもえ 10巻まで
桜井のりお (秋田書店 少年チャンピオン・コミックス)
最高(50点) 2011年2月23日 ひっちぃ
小学生の変人三姉妹がクラスメイトと繰り広げるギャグマンガ。やたらSっ気がある高飛車な長女みつば、天真爛漫で怪力な次女ふたば、根暗で恨みがましい三女ひとは。
去年アニメ化されたので三話ぐらい見た。しかし、三姉妹の過激な設定と、三姉妹を溺愛する父親がその怖い外見からすぐに変質者と間違われて警察のやっかいになるオチなど、あまりに安易なギャグ作品だったのでいったん見るのをやめてしまった。その後、原作者が実は若くてかわいい女性だという事実を2ちゃんねるのまとめブログ「ニュー速クオリティ」だったかで知り、もう一度二期のアニメを一話だけ見てみたら印象がガラリと変わったので、原作にも手を出してみた。
まず、桜場コハル「今日の5の2」を思い出した。こちらも小学生の日常を扱った話なのだけど、こっちはちょっとやんちゃですけべな少年が主人公で、こいつがクラスの女子たちからいじられながらもなんだかんだで好かれているというハーレムもの。作者は女っぽい名前だけどたぶん男だろうなあと思って念のためいまWikipediaを調べてみたらやっぱり男だった。同じ作者による「みなみけ」はひょっとしたら作者が女かもと思わせるものがあるのだけれど。
一方でこの「みつどもえ」は、そういう立ち位置のすけべな男子「千葉氏」がいるけれどこいつは主人公ではない。たぶん一番の主役は三姉妹の長女みつばだろう。こいつはやたらとSっ気があり高飛車で生意気な性格をしているため、見栄を張りたがったり人の上に立とうとしたり人を貶めたりしようとして失敗する。動物の絵が入ったパンツを愛用しているという子供っぽい側面や、途中からスィーツ好きで腹に肉がついてきているというデブ設定までつく。男の作者だとここまで突き抜けた設定は無理だろうなあ。さすが作者が女だなと思う。あさりちゃんを思い出した。
この長女みつばのライバルとして、お金持ちのお嬢様である杉崎みくがいる。ドラえもんで言えばスネオの立ち位置にいて、やたらと長女みつばを屈服させたがり、長女みつばのまぬけな場面を携帯の写メに撮ろうと常に隙をうかがっているのだけど、なんだかんだで長女みつばのことが大好きなのだということが明確に描かれている。弟思いだったり。
次女ふたばは素朴な性格をした怪力女。登場当初はまるでゲーム「ストリート・ファイター」シリーズに出てくるリュウのような空手着を着ていて、アニメでは無邪気な表情で見事な昇竜拳を繰り出して見せる(しかも担任教師の股間めがけて)。よく机を手刀でぶったぎる。でもまったく悪意のない天然キャラ。クラス一のイケメンキャラ佐藤君と幼馴染で仲が良く、特に佐藤くんのほうは時々次女ふたばを意識してしまうシーンが出てくるが、次女ふたばはまだ色恋なんて考えたこともなく父親が大好き。ちなみに佐藤君はサッカーが得意なモテモテ君で、なんとクラスには「佐藤君が好きでしょうがない隊」というおっかけ三人組の女たちがいるのだけど、一方で作者の魔の手により三姉妹からはパンツ大好きな変態だと思われている。次女ふたばは、なんだかんだで男子とは一番仲がよく、みんなで休み時間に一緒に遊んだりする。やたら絵がうまく、なぜか「おっぱい」が好きという設定があり、クラスのHな男子「千葉氏」とも意気投合したりする。
三女ひとはは根暗キャラで、一人で謎の本をずっと読んでいることが多く、思ったことがあっても奥手でなかなか口にすることが出来ない。途中で戦隊ものヒーロー「ガチレンジャー」にハマり、同好の志を探して新任担任教師矢部っちと話題を共有しようとするがうまくいかないなど。また、父子家庭の丸井家の母親役として家事をこなすなど三姉妹の中で一番の常識人だが、一方でドライなところもあり、長女みつばが意外に情の深いところを見せたときに見事にかわしてオチをつける役も担う。
三女ひとはの天敵は主に二人いて、一人はやたらとオカルトに結び付けたがる松岡さんで、もう一人はやたらと仲良くなりたがるバスケ部の宮下さん。松岡さんに巻き込まれるギャグは私にはちょっと安易すぎてつまらないのだけど、宮下さんに絡まれる話は結構面白くてツボった。宮下さんは純粋に好意で三女ひとはの根暗な性格をなおしてあげたいと思ってつきまとうのだけど、それが全部うっとうしくて迷惑になるという。松岡さんは純粋なギャグキャラだけど、宮下さんは本人的には結構がんばっていてかわいい。宮下さん自身も人から好かれたがっているのだけど、「宮なんとかさん」などと名前を覚えてもらえなかったりしてかわいそうなところがまたいい。
ほかにレギュラーな脇役として吉岡さんという、まゆげが太くて心優しいけれどなんでもかんでも色恋に結び付けたがる天然キャラがいる。目をバッテンにさせていっぱいいっぱいに振舞うところがかわいい。
序盤はあまりに登場人物の性格描写が極端すぎて大して面白くなかったのだけど、回を追うに従って登場人物の性格に奥行きが出てきて魅力的に感じていった。かわいいだけ、かっこいいだけの人はいなくて、どこかまぬけな側面がある。特に、女子キャラに対してここまで思い切った性格付けをした作品はなかなかないんじゃないだろうか。ただ単にギャグキャラというだけなら色々挙げられるのだけど、個性的なかわいさと両立した面白さを持った女性キャラがこんなにたくさん出てくる作品は私の知る限りではいままで無かったと思う。
これにもうちょっと恋愛要素を入れてラブコメ風にしたらもっと自分的には好みなのだけど、さすがに小学生でこれ以上やるのは無理だろうなあ。ギャグで流されそうだし。ともかく、学校ものの日常系ほのぼの作品としては、私の中では桜場コハル「みなみけ」と同じくらい大好きになった。「みなみけ」は結構淡々としていて、ダメな人には全然ダメみたいだけど、この「みつどもえ」は割ときっちりオチをつけてくれるので分かりやすい。でもその代わり、読者が引くほど過激だったり、一方的にかわいい女の子が出てこないという少年誌的に致命的な欠陥もあり、マニア好みの作品だと思う。さすがに私も尿検査の回で登場人物たちが尿にまみれる展開には引いた。あと、安易にオチをつけるぐらいなら多少放り投げるぐらいでいいんじゃないかと思うんだけど、それは無理な注文か。
たぶんこの作品は男女平等の時代を先取りしすぎたと思う。波に乗っていれば、臼井儀人「クレヨンしんちゃん」クラスの大人気作品になっていたんじゃないだろうか。にしてもいま思えばネネちゃんもすごいキャラだったよなあ。
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