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    製作:旭通信社、東宝、グループ・タック 総監督:杉井ギサブロー 原作:あだち充

    傑作(30点)
    2011年4月30日
    ひっちぃ

    双子の上杉兄弟と隣近所の女の子・南は家族ぐるみの付き合いをしている幼馴染だった。上杉兄弟の弟の和也は高校一年生のときにすでに野球部のエースで、南とは校内公認の美男美女カップルと言われていた。そんな二人を前に兄の達也は一歩引いて少し屈折しながら毎日お気楽に過ごしていた。長年スポーツマンガを描いてきたベテラン漫画家あだち充の代表作。

    最近だと三十過ぎの女芸人いとうあさこが浅倉南のマネをして笑いを取る芸をしていた。たぶん世代的には今の四十前後の人たちが見ていたのだと思う。この頃のアニメは多くの人が見ていたので、この作品を見てきたと公言しても恥ずかしくなかったんだろうな。いまは別の意味でオタクが市民権を得てきているのだけど。

    原作者のあだち充はこのあともH2や「クロスゲーム」といった同じく野球を扱った作品をヒットさせていて息の長い作家になっている。「クロスゲーム」がつい最近アニメ化されていて見て面白かったので、MXテレビでこの「タッチ」が初回から放映されたのを初回から見てみた。

    たぶん面白いんだろうなと思って、見てみたら予想以上に面白かった。絵は時代を感じさせるので、じっくりと味わわないとダメかと思って腰を据えて見たのだけど、まったくの杞憂で初回から話に引き込まれた。

    第一期は上杉兄弟の弟である優等生の和也が甲子園を目指す。二人の男に一人の女がいるという構図になっている。上杉兄弟は本当は二人とも南が好きだったが、南を甲子園に連れて行くという夢を語って一途に努力する弟の和也に対して、兄の達也は複雑な思いを持って二人とは距離を置き、Hな本を回し読みしたり覗きをしたりといい加減な毎日を送っていた。そんなだらしない達也を南はいちいち気に掛けるのだった。という三角関係が主に描かれる。なんかせつない。

    しかしこの関係は、よく知られているように和也の事故死によって終わりを告げる。弟の和也と同じ土俵に上がって勝負することを避けていた達也が、弟の遺志を継いで野球部に入る。弟の和也のことが忘れられないナインや特にキャッチャーの孝太郎は、当初兄の達也と反目していたが、徐々に受け入れていくところが第二部で描かれる。

    新たに新田兄妹というライバル校の強打者の兄とおてんばな妹が登場し、兄は南に惚れ、妹は達也に惚れて四角関係が始まる。野球部のマネージャだった南は、友達から新体操部に誘われて活躍しだす。明確な区切りはないけれどこのへんが第三部か。

    野球部の監督が病気で倒れ、代わりにやくざまがいのグラサンの男が監督としてやってくる。練習に遅れていた達也をボコボコに殴り倒した監督は、それから野球部に圧政を敷いて部員を虐げる。この監督は同校OBで遠い過去の因縁を持っていた。達也たちはこの監督のもとで甲子園を目指さなければならなくなった。これが第四部か。

    全部でなんと101話もある。最初の方は密度が濃かったけれど、だんだんだれてくる。兄の達也が野球部に受け入れられてから最後の甲子園を目指して合宿するあたりまで、特に新田妹の料理ベタをなんとかするあたりとかショートの部員が辞める辞めると言っていたあたりがグダグダしていたと思うけれど、最終話までの展開で持ち直した。野球部に恨みを持つ監督が無理難題を押し付けてナインを困らせる。しかし実は…みたいな。

    この作品の中で私が一番魅力に思ったのは、序盤で屈折した思いを抱えてダメ人間として振舞う達也と、実はそんな達也のことが最初から好きだった南の思い、そして薄々負けていると思いながらも突き進まずにはいられなかった真面目な和也の真剣さだった。これで散々盛り上げておきながら、和也を事故死で退場させたのはうーんどうなんだろう。しょうがなかったのかなあ。作者が逃げたようにも思える。

    野球部で受け入れられて新たなエースとなった達也の前に、達也のことを尊敬して崇拝する小柄な同級生が現れる。この男は達也のあとを追いかけてピッチャーになるのだけど、達也がなかなかやる気を見せないのでついに想いが裏返って達也を罵倒するようになる。こういう人間関係の濃いところがとても面白かった。しかしこれまた散々盛り上げておきながら彼を転校させて放り出してしまうのだった。

    新田兄妹も四角関係で色々思わせぶりなところを見せるのだけど、結局最後まで達也と南の想いは揺れることなく過ぎてしまうのだった。もっと色々あっても良かったんじゃないかと不満に思った。もう一つのライバル校のエースがものすごいベタに南にアプローチして道化役をつとめているところとかあんまり笑えなくて少しうんざりした。でもこいつは最後にちょっといいところを見せるのがちょっとじんときた。

    終盤に入ってヤクザ監督が話を引き締めて面白くなるのだけど、最後はあんまりきれいには結末がついていないと感じた。安易な感動話になってないことはすごく良かったのだけど、なんかもうちょっとスッキリしたかった。

    最終話に掛けて、達也と南の関係にも結末がつく。あの有名な台詞が出て終わる。そこに至るまでの達也の悶々とした気持ちがちょっとよくわからなかった。和也の遺志を継いで甲子園を目指した達也の内面についての描写が、本人の独白ではなく周りの人々の推測によって語られるのだけど、なんかそれっぽく感じられなかった。

    と色々と欲求不満に思うところはあったけれど、話に破綻がなくて全編にわたって安心して楽しんだ。101話もあってなんだかんだで全体的に面白いっていうのはすごいと思う。

    ただ、近年の野球マンガの傑作、ひぐちアサ「おおきく振りかぶって」の濃い心理描写と細かい試合展開を見ると、もうこの「タッチ」の描写はところどころ物足りなく思えてしまう。まあ「おおきく振りかぶって」はちょっとクドくてありえない感もあったのだけど。それとこの「タッチ」は主要登場人物以外の部員の扱いが弱すぎる。一人一人名前がついていてたまに各部員に焦点があたることもあったけれど影が薄すぎた。

    というわけでまあ時間のある人はじっくり鑑賞すれば楽しめると思う。時間のない人は序盤だけ見ればと言いたいところだけど、そこまで見ちゃうと続きが気になるし、最後までの展開も面白いので、時間が出来たときに手を出したほうがいいと思う。

    (最終更新日: 2011年4月30日 by ひっちぃ)

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