ソードアート・オンライン2 アインクラッド
川原礫 (アスキー・メディアワークス 電撃文庫)
傑作(30点) 2011年8月7日 ひっちぃ
高度なヴァーチャル・リアリティ(仮想現実)技術によって実現されたMMORPG(多人数参加型ロールプレイングゲーム)の中で、ゲーム内での死=現実の死と戦い続ける少年剣士キリトと四人の少女たちとのエピソードを綴った短編集。
一話目はビーストテイマー(獣使い)のシリカという少女との物語。ごくまれなイベントにより仲間になった獣を連れているビーストテイマーのシリカは、さらに自身がゲーム内でも数少ない女性プレイヤーだったことから、みんなからの人気もので引く手もあまただった。しかしあるとき自分の思い上がりもあってずっと連れ添ってきた獣を死なせてしまう。絶望のどん底にあった彼女の前に少年剣士キリトが現れ、獣を蘇生させるアイテムの存在について教えてもらい、獣を生き返らせるためにしばらく行動をともにする。少女の絶望の描写がとても美しくてジンときた。話の筋としてはあとは普通に解決するだけなのだけど、本当に蘇生できるのか気になってぐいぐい読んだ。
二話目は鍛冶屋の少女リズベットとの物語。彼女は一巻のヒロインであるアスナの親友で、アスナも登場する。強い剣を求めるキリトが店にやってくるが、店には彼の求める剣がないため、剣の素材となる鉱物を一緒に探しにいくことになる。最初すごいベタな少女が出てきたなあと思って多少辟易しながら読み進めていったら、勝気な彼女がキリトの行き当たりばったりな性格に惹かれていくさまが純朴的でよかった。最初にアスナが出てきていることから想像できるように、彼女のこの恋は親友への裏切りとなってしまう。彼女の決断のシーンに胸が苦しくなる。恋愛モノとしてすごくよかったし、話の筋もゲームの設定が生きていてとてもよかった。キリトの最後の行動にはやや首を傾げた。あとエピローグが蛇足な感じ。
三話目は一巻のヒロインであるアスナとキリトとの新婚生活の挿話。一緒にいると何をやっても楽しい盛りの二人がある日、怖いものみたさで幽霊が出ると噂される森に出かけた。一応ミステリー仕立てなのでこの先の詳しいストーリーは紹介できないけれど、これはきっと「不完全なワタシ」モノなのだと思う。この説明は我ながらギリギリだな。世間的にたぶん人気のある設定なのだろうけれど、私はこういうのが嫌いなので入っていけなかった。でもアスナの反応の描写はとてもよかった。あと《軍》についての描写があってこっちは世界観的に面白かった。
四話目はキリトが一巻のときから自分の暗い過去として語ってきたギルド全滅の話。かなり短くまとめられていて、あまり出来のいい話ではないけれど、語られないよりは語られた方がよかったという意味では必要な話だったと思う。
シリーズを通じて最重要人物というか主人公であるキリトの性格描写がちょっと偏っている気がする。攻略への熱意を支える感情とか過去を悔やむ想いは激しくて胸を打たれる一方で、割となんでも適当にしてしまういい加減さもまた魅力的で飄々としていて良いのだけど、そのあいだをつなぐような部分が何か物足りない気がする。
ネットの評判は一巻と比べるとやや賛否が分かれ気味だったけれど、負けず劣らず良かったと思う。一巻読んで面白かったのならこの二巻も読むことを勧める。恋愛ものが苦手でなければ。
|