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    西尾維新 (講談社 講談社BOX)

    傑作(30点)
    2011年8月14日
    ひっちぃ

    子供の頃にふとした心の弱さにより親から受け継がれた呪術的なアイテムにすがってしまったために呪いを受けたことのある少女・神原駿河は、先輩に助けられて以来、腕に残る後遺症とともに静かに高校生活を送っていた。しかしあるとき、自分が取り憑かれたのと同じ「悪魔様」を騙る何者かが他人の人生相談に乗っていることを噂に聞く。物語シリーズのライトノベル。

    表紙の絵がたまらん。少女の素足。台湾人イラストレーターVOFANによる挿絵にはこれまでそんなに強い感銘は受けていなかったのだけど、今回のこの透き通るようなちゅるっちゅるの足には目が釘付けになった。素晴らしい。

    作者の西尾維新は相変わらず予告どおりのペースで作品を量産している。今回はスポーツ変態少女の神原駿河が一人称となって彼女自身の新しい物語を語っている。先輩たちのいなくなった学校というフレーズに心地よい感傷が漂っていて引き込まれた。

    猫物語で一人称をとった優等生の羽川翼とは対照的に、今回はあまり頭が良くない(と自分では思っている)スポーツ少女の神原駿河が自分語りをしていて趣向が面白い。

    自己紹介と謎の人物に触れたあとで自分の母親について語るのだけど、いきなり萎えた。「西尾維新的つまらなさ」としか言いようのない超越的な人物設定の母親が娘の幼い頃より意味ありげで意味なさげな言葉を色々投げかけてきたという回想と考察が続くのだけど、結局今回の話の内容とはほとんど関係なかったしおもしろくもなかった。新登場人物の忍野扇というやつもいまいちだしそもそも意味不明だった。同じバスケ部だった日傘との会話は距離感とか互いの虚像みたいな行き違いが少し面白かった。

    今回は「悪魔様」を騙る謎の人物をめぐるミステリーといった感じ。話の筋はネタバレしてしまうので書かない。たぶんこの話は、神原駿河が自分のために「余計なことをする」話であり、それが彼女にとっては余計なのではなく重要なことらしいのだけど、彼女自身よく分かっていないし読者の私にもよく分からなかった。でも彼女は最後に何かを成し遂げ、話にもきれいに決着がつく。ところが彼女の中にはまだもやもやしたものが残っていた。

    きっと作者は解釈自体を否定しているのだと思う。本文の最後の台詞は、話者の性格なりにちょっとキザな感じではあるけれど、この作品で一番言いたかったことであることは間違いないと思う。作為的なこととか、なんでも上から目線で解釈するようなことなんかを否定したいんだろうな。

    ん?

    前に本シリーズで出てきた詐欺師が再登場して、神原駿河の前では別の顔を見せるところが面白かった。あと、今回はこれまで出てきた人物があまり出てこないのだけど、阿良々木先輩の妹との会話があってよかった。もうちょっと欲しかった。

    あんまり私の好きな話ではなかったけれど、なんだかんだで謎に引き込まれて面白く読んだ。本シリーズのファンなら特に問題なく楽しめる作品だと思う。

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