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    西尾維新 (講談社 講談社BOX)

    傑作(30点)
    2011年9月4日
    ひっちぃ

    以前クラスで呪いごっこが流行っていたときに自分に向けられた不完全な呪いをはねかえそうとしたばかりにかえって本当に呪いに掛かってしまい大好きな「お兄ちゃん」に助けてもらったことのある内気な中学生女子・千石撫子は、一体なにがどうなったのかそのお兄ちゃんと殺し合いをすることになっていた。さてその経緯とは?「化物語」に始まる物語シリーズのライトノベルの続刊。

    超展開すぎるw 幼い頃の友達の兄をいまでもひたむきに慕っているというあの物静かな人気キャラの少女が、一人称をとって必死にいまの状況を語るところから始まっている。この作品のネットでの評判が一部で最悪と言えるほど悪かったのは、おとなしい少女がこの作品ではかなり暴走しているからだろう。彼女が実際に起こした暴走というより、彼女の心の中の声が読者のこれまでの彼女に対する幻想を台無しにしてしまうほど腹黒かったからに違いない。

    腹黒いというよりも自己欺瞞がひどくて人のせいにしてばかりで、なおかつ自分でもそんな自分のことがなんとなく分かっている。崩壊した学級の建て直しをしてくれる学級委員という過剰な期待を担任の先生から受けたり、まわりからかわいいと言われて反応に困ったりして、防御機制としてうつむいて言いよどんだりすることでおとなしいキャラという都合のいいそとづらを得ている。そんな彼女が、いっこうに良くならないクラスの状況や、やたらと根掘り葉掘り深いところまで突っ込んでくる阿良々木月火の追及により、どんどん暴かれていく。そんな様子が、新たに取り憑いてきた小さな白いヘビである「クチナワさん」との対話とともに語られる。

    一応話の軸としてこの自称神様のクチナワさんを復活させるためになにをどうしたらいいのかという謎解きがあって物語は進んでいくのだけど、この作品の一番濃いところは、執拗に撫子のことを追求する阿良々木月火との対話の場面だと思う。すごく緊迫感があって読み応えがあった。朝に兄を過激な方法で起こすぶっ飛んだキャラ、兄に対して狂気的な想いを持ったキャラ、というぐらいにしか特徴づけされていなかったように思っていた月火が今回初めて本格的に動いているように思えて魅力を感じた。対話の終盤での撫子への追求がもっとビシッとしていてくれたらなあ。

    と解説してみると、読んでいてもっと興奮していても良かったような気がするのに、結構淡々と読んでしまった。いまさらぶりっ子(?)の本音やらそれが音を立てて崩れていくところを見ても楽しめない自分がいた。うーん。きっと楽しめた人はすごく楽しめたんじゃないかと思うんだけど…。いや、男性読者はおとなしい少女の幻想をぶちこわされて怒り、女性読者はあまりに当たり前すぎてふうんとしか思えなかったりしたかも。本が好きな人って思ったことをすぐ口にするような割り切った人が少なそうだしなあ。

    結局導入部で語られたお兄ちゃんこと阿良々木暦との戦いに納得のいく形で結末がつかない点も消化不良な感じ。

    とまあいまいちな感じではあるけれど、今回も新しい趣向で十分楽しめた。中学生には難しい単語、あるいは撫子にはちょっと似合わない言葉は、漢字ではなくわざとひらがなで括弧入りにするなど、中学生の少女が自分語りをするという雰囲気にたっぷり浸ることができたし。ってそう思えるのは私がこの作品や作者のファンだからであって、多くの人にとってはストーリーがつまらんただの駄作なのかもしれない。

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