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    なもり (一迅社 Yuri-Hime COMICS)

    傑作(30点)
    2012年1月15日
    ひっちぃ

    中学一二年生の仲良し女の子四人組その他がゆるく繰り広げる百合(同性愛)な学校生活を描いた日常ギャグマンガ。廃部になった茶道部に代わって校内の和室を堂々と不法占拠して非公認な部活「ごらく部」を名乗り、かなりどうでもいいことで時間を潰す面々と、彼女らを目の仇にしているようで実は仲良くしたい生徒会四人組などが描かれる。

    2011年秋にアニメ化されたのを見てまあまあ面白いと思ったので原作にも手を出してみた。軽い百合ものの金字塔である今野緒雪「マリア様がみてる」の大ファンの私からすれば、この作品は百合ものとしては正直いまいちだったけれど、ゆるい雰囲気で現代的なギャグセンスが光るかわいいキャラクターものの作品としてはなかなか良かった。

    主人公は中学に入学したての赤座あかりといういかにも主人公っぽい顔立ちの赤いダンゴヘアの女の子なのだけど、こいつは登場シーンだけそれっぽかったのにあとは全然キャラ的に影が薄く、そのことを作中でメタにからかわれてネタにされている。表紙やストーリーだけでなく、書店の営業的にもわざと赤座あかりの顔が隠れるようにポップを張ったりしていてウケる。絵に描いたような「いい子」で、その点に関しては揺ぎないけれど、そこをよくおちょくられる。

    代わりに実質的な主人公なのが歳納京子という金髪ロングヘアで奔放な性格をした女の子。こいつはテストを一夜漬けで学年トップを取る頭の良さと、魔法少女ものの同人誌を描く器用さを兼ね備え、自由人的になんでもありな振る舞いで周りを引っかき回す。最初キャラクターが把握できなくて混乱した。版元がマイナーな出版社なせいか恐らくそれほど編集の力が強くないため、普通だったらたとえば週刊少年ジャンプの集英社なんかだと編集が「シルエット(影絵)だけでどのキャラか分かるぐらいに特徴を描き分けろ」としつこく言われるところを、この作品はのびのびと作者が描きたいように描いている感じ。慣れると愛着が出てくる。

    その京子にも弱みがあって、茶道部目当てでやってきたちなつちゃんという外見が魔法少女そっくりの後輩の女の子に好かれたくてしょうがないのだけど袖にされている。このちなつちゃんはピンクのボリュームあるおさげ髪が特徴でかわいいのに、性格が悪くて絵が殺人的に下手で京子のことを毛嫌いしている。結衣先輩のことが大好きで、キスしたいとか常々思ってアクションを起こしているけれどうまくいかない。嫌いな京子と近い暴走キャラ。同族嫌悪なのかも。

    結衣は京子の幼馴染でクールな黒髪ショートの女子中学生で唯一の突っ込み役。中学生なのに自立のためとかいって親戚の所有するアパートの一室を借りて一人暮らしをしていて、部のメンバーが頻繁に遊びにくる。この作品の舞台は学校の特に和室と生徒会室とこの結衣の家が多く、各メンバーの家なんかもちょこちょこ出てくる感じ。結衣は本当に落ち着いていてスキがないように見えるけれど、一人だと寂しそうな様子も少し見せる。

    生徒会副会長の綾乃はなにかと金髪ロングの奔放な歳納京子につっかかるが実は彼女のことが大好きという分かりやすいツンデレ(ただし百合つまり同性愛)。読んでいて一番ウソっぽいキャラだと感じたけれど、もう様式美みたいなものなのかもしれない。ヘンな地名のダジャレを時々口にして結衣のツボにハマる。

    その綾乃に常に付き従っているのが京都弁をしゃべるおしとやかな少女の千歳で、作中人物の中で唯一、同性愛というものを客観的に意識して妄想して楽しんでいる。漬物が好きで性格もやや老けているメガネっ子。妄想にひたるときはメガネを外す。そのときよく鼻血を出す。よく安易にオチに使われていてイラッとくるけれどこれも様式美か。

    生徒会一年生コンビ二人はいつも喧嘩ばかりしていて次期副会長の座を争っているが、実はとても深いところで仲良し。両方とも互いをはっきり罵りあうほど気性が激しいけれど、片方は奔放な自由人で京子と重なるところがあり、もう片方は割とまじめでしっかりしている。結衣×ちなつ、ちなつ×京子、京子×綾乃はそれぞれ一方的な関係なのに対して、この二人は双方向にフラグが立っている。最初キャラの見分けがつきにくくてよくわからなかったけれど、読んでいくに従ってこの二人のことが好きになってきた。

    ほかに日本人形みたいでやたら声が小さい生徒会長の女の子と、彼女と強く結びついていて意志の疎通をしているマッドサイエンティスト属性の女教師が出てくるけれど、ネットでの評判もいまいちで私もそう思った。あまりに型どおりで出てくると不快感すらある。

    作者の「なもり」という人は初連載みたいで、そのせいか最初のほうの巻を読んでいると、マンガの技法的に「このコマ要らなくない?」と感じるところがそこここにあったけれど、間の取り方とかゆるいギャグとかが絶妙でとても高いセンスを感じる。この種の作品の中では絵やコマ割や展開がスッキリしていて比較的読みやすい。

    筆が異様に早いことがネットで伝説になっていて、画像投稿サイトだかツイッターだかに次々にアップされてネット民を驚かせた。最新7巻がなんと全部描き下ろしだったり、掲載誌の他作品の穴埋めに全部この作品で埋めた(?)ことがあったりしたそうだ。

    絵も特徴がそれほどないようでいてオリジナリティがあり、他の作家がこの作品のキャラを描くとなにか違う感じがして、そのようにネットでも言われていた。基本アニメ絵でメリハリがあってプルッとしている。

    あずまきよひこ「あずまんが大王」「よつばと!」が好きな人は読んでみるといいと思う。この「ゆるゆり」はアニメ化されて知名度が上がったとはいえ掲載誌がマイナーで、軽度ではあるけれど百合という人によっては拒否反応を示す属性を持っているため人気は頭打ちになりそうだけど、次の作品で一気にメジャーになりそうな気がする。

    (最終更新日: 2012年1月15日 by ひっちぃ)

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