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  • 聖結晶アルバトロス

    若木民喜 (小学館 少年サンデーコミックス)

    まあまあ(10点)
    2012年2月13日
    ひっちぃ

    中学二年生の熱血空手少年ユウキが、あるとき家の前で助けた小汚くて緩慢な少女は、実は異世界のお姫様だった。なにかの事故により自分の世界から飛ばされてしまった少女は、分裂してしまった聖結晶のかけらをたった一人で探していた。そんな少女をほうっておけないユウキは彼女の手伝いをし、次々と立ちふさがる敵を倒していく。少年マンガ。

    アニメ化されたリアルギャルゲー攻略マンガ「神のみぞ知る世界」の作者である若木民喜の連載デビュー作。結局この作品は「俺たちの戦いはこれからだ!」的な感じで打ち切られ、挫折感の中でしばらく引きこもってゲームばかりしているうちに次の作品につながったという逸話がある。この人はなんと京大卒らしい。

    というわけで正直あまり期待していなかったのだけど、読んでみるとそれなりに楽しめた。二流王道バトル作品としては十分な出来で、なぜ打ち切られたのかよくわからなかった。この程度の作品ならいまのマンガ雑誌でいくらでもありそうなもので、単行本にして十数巻ぐらい出てもおかしくないと思うのだけど、結局五巻で無理やり完結させられている。

    この作品の一番のポイントは、ヒロインであるアルバトロスが普段はエネルギーを節約するために省エネモードで過ごしており、その姿はみすぼらしく、思考もトロくて、学校でもみんなから嫌われているのだけど、ひとたびエネルギーを摂取するとキラキラのお姫様に変身して気丈なところを見せる点だろう。うん。そうに違いない。この狙いはとても面白いと思った。でも自分が省エネモードでいることについて当のアルバトロス自身が何とも思っていなかったり、あまりに外見が変わってしまうために本当に同一人物なのか主人公ユウキ以外の他の人には全然分からないし、このギャップを使って何か話があるかというとまったくそんなのはないなど、話づくりにほとんど使われていなくてもったいない。

    アルバトロスは故国で悲壮な決断をして地球に飛ばされた、いわば悲劇のヒロインなのだけど、その悲劇の具体的な内容がついに描かれずに終わってしまった。打ち切られなかったらそのうち語られたのかもしれないけど、それでは遅すぎる。また、異世界のお姫様という設定なのだけど、周りに味方が一人もいないので敵の口から思わせぶりに語られるだけ。姫という記号だけが一人歩きしている。女官キャラかマスコット的なのが一人か一匹ぐらいいたほうが良かったんじゃないだろうか。

    主人公のユウキは絵に描いたような熱血少年。小さい頃に父親を亡くしており、母親が空手道場をやっていてユウキを毎日しごいている。いつもぶーぶー文句を言いながら稽古を受けている。あんまり頭はよくないけれどいいやつ。この主人公はとてもよく出来ていて好感が持てる。ただ、行動原理が「困った人を放っておけない」だけなの?アルバトロスに対する恋愛感情は持っていないかあるいは自覚していないようだ。省エネモードのアルバトロスに対しては結構気さくに世話を焼いてやるのだけど、ひとたびキラキラ変身されると目を合わすこともできずに顔をそむけて赤面する。それを見てアルバトロスは自分が嫌われているのではないかと思うシーンがあるのだけど、このとってつけた感がひどい。

    ほかに主人公の幼馴染の女の子が出てくる。こいつも結構かわいい。典型的な「恋愛を意識しはじめたけど素直になれない幼馴染の女の子」でキャラ的には魅力的。でもほとんどおまけ程度の浅いエピソードしかない。茂みの中でキラキラモードがとけて素っ裸になったアルバトロス(おやくそく)に覆いかぶさっているかのように見えたユウキに対して、ただただ変態男だとなじるだけで済ませてしまい、自分の恋心がどうのといった描写はない。バトル展開ばかりで、合間の日常描写がほとんどなく、飛び飛びでしか出番がない。ユウキの友達もろくに出てこないし。

    ほかにも細かく突っ込むところはいくらでもある。でもこれ以上書いてもしょうがないのでやめておく。

    と散々けなしてきたけれど、読んでいる間は楽しめたし、先の展開が気になったりもした。まあ続きを読んでみたいかと言われたら首を横に振るだろうなあ。でも主要キャラは魅力を持っていると思うし、足りていない描写はたぶん私が想像で補っているところもあると思う。作者もきっと頭の中ではキャラが魅力的に動いていたのだろうけれど、それを描ききれなかったんだろうなあ、と好意的に解釈してみる。

    たぶんこの絶版になった?この作品をいまさらあえて読みたいと思うような人は、同じ作者の作品「神のみぞ知る世界」のファンぐらいだろう。この作品は想像より面白い作品であるとは言えるけれど、この作者ならではの感性の暴走なんてものはまったくなく、ただただ無難な二流作品であることにガッカリするのではないかとも思う。

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