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    芦奈野ひとし (講談社 アフタヌーンKC)

    いまいち(-10点)
    2012年5月17日
    ひっちぃ

    人口が激減して文明が衰退し、人々が過去の遺産を利用しながら質素な生活を営んでいる空想未来の日本の横浜を舞台に、アンドロイドの女の子アルファがマスターの残してくれた小さな小さな喫茶店を開きながらスローライフで生きていく話。マンガ。

    2ちゃんねるでたまに話題に上がるので興味を持ち、確かOVAを見てみてあんまり面白くなくて投げ出したのだけど、原作マンガを見てみないことにはダメだろうということで読んでみた。

    ヒロインはアンドロイドなのだけどほとんど人間みたいに暮らしている。彼女のかつての持ち主である通称マスターはすでにどこかへ行ってしまい、ごくたまに手紙が届く程度になっている。だから最初私は彼女がけなげにもマスターのことを想いながら自分の生活を守っていく物語なのかと思ったのだけどそうじゃなかった。彼女はマスターのことを大切には思っているけれどまったく依存しておらず一人で生きている。

    じゃあそんなささやかな彼女の生活を支える近所の人々との人情話なのかと思って読み進めたのだけど、人情というほど泥臭い展開にはならない。みんなちゃんと自活しているし、精神的にも孤独じゃない。互いに互いのことを大切には思っているけれど、寄りかかっているわけじゃない。

    でもって、生き方についての説教臭い話にもならないし、文明批判にもならず、出会いと別れは描かれるけれど過度な感傷もなく、人知の及ばない自然をとりたてて描いてみせるわけでもない。

    じゃあなんなんだって話だ。

    正直けっこう退屈な本だった。これ面白いのか?物語が進むわけでもないし、アンドロイドの開発秘話がはっきり示されるわけでもないし、人と人との機微が明確に描かれるわけでもない。

    でも結局全部読んでしまった。

    とくればここから先はこの作品の魅力についてどうにかして語るべきお約束なのだろうけれど、やっぱり私にはこの作品がそんなに良い作品には思えなかった。ただ、時間を返せとまで言う気にはなれなかった。なんというか、キツネに鼻をつままれた感じ?どうでもいいけどなんかこの比喩って比喩になってないな。っていう文章をどこかで読んだような。

    ただ、生きるってことが本来どういうことなのか、ということを考えさせてくれる作品ではあると思う。作品自体は何も語らないけれど、そのぽっかりあいた穴を読者それぞれの想像力が埋める。

    コンテンポラリーじゃないんだよなあ。この作品は読者に向き合っていないと思う。作者が自分の理想社会を抽出してみせた感じ。人類の衰退が理想だっていうわけじゃなくて、仮に人類が衰退したとした場合に成り立つかもしれない人と人との素朴なやりとりが、きっと作者にとっては理想なんだろうなと思う。あ、実際問題として素朴なやりとりなんかじゃなくヒャッホーイな世界になりそうなんだけどね。

    だからこの作品には現代社会と結びつくものがほとんどない。だってみんな色んなしがらみの中で生きているわけだから。そんな社会から逃避している。別に悪いとは言わないけれど。一言で言えば子供っぽいんだろうな。

    どういう偶然か、ちょうど私は作中のムサシノの国からヨコハマまで毎日通っているわけだけど、公共交通機関で人がいっぱいの中を淡々と行き来している。ヨコハマの埋立地に立つビルの中で人々は生きることとは直接関係ない仕事をしている。海は汚いし、その上を高速道路が通っていて、車がゴーゴーと行きかっている。

    ということを書いていてふと思ったのだけど、読者である私自身がフィクションを楽しめなくなっているだけなのかもしれない。この作品は一種のユートピアものなのかな。素朴な世界にあこがれる読者を魅了したのかもしれない。でも私は勧めない。読まなくていい作品だと思う。

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