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  • ソードアート・オンライン 3と4 フェアリィ・ダンス

    川原礫 (アスキー・メディアワークス 電撃文庫)

    まあまあ(10点)
    2012年7月7日
    ひっちぃ

    仮想現実技術を利用したMMORPG(多人数参加型オンラインロールプレイングゲーム)ソードアート・オンラインの世界に数千人の意識が閉じ込められて行われた悪夢のデスゲームを攻略した少年だったが、その世界で出会ったかけがえのないパートナー・アスナの意識は依然として戻らなかった。病院に通いながら彼女を見守る少年のもとに、アスナの意識の居場所をほのめかす一枚のスクリーンショット(ゲーム画面の画像)がもたらされた。それはソードアート・オンラインと同じ技術を使って平和裏に運営されている別のゲームのものだった。わずかな手がかりをもとに少年は再びネットゲームの世界に飛び込む。そんな少年の傍らには、血のつながっていない妹の姿があった。

    MMORPGの世界を描いた小説としてネットの一部で評判の高かったシリーズの続編。2012年7月からアニメ化される。というかTOKYO MXはこれを書いている7月7日の深夜に放映開始される。同じ作者による「アクセル・ワールド」は4月からアニメ化されていて、これまたネットゲームの世界を描いていて作者のメジャー・デビュー作?らしい。「ソードアート・オンライン」はその前に作者の個人サイトで公開していて人気を博したもの。

    本シリーズは1巻できれいにゲームが攻略されており、2巻は時間を巻き戻してサイドストーリーが描かれる短編集だったが、この3巻4巻は新たなネットゲームを舞台にしている。さすがに今回はデスゲームでもなんでもなく普通のゲームになっている。作者があとがきで、普通のゲームがどこまで小説になるのか試したかったとかなんとか書いていた。うろおぼえ。

    今回の話の中心は妹・直葉(すぐは)。一応これまでにも主人公の少年に妹がいることが書かれていたのだけど登場はしていなかった。それが今回は濃密なモノローグ(独白)から登場する。主人公の少年がゲームに囚われた一年半の間に、主人公の少年とは血がつながっていないことを両親から知らされた彼女が、主人公の少年を一人の男として好きになっていったこと、そんな少年がゲームから帰還したときに少年には既に想いを寄せる相手が出来ていたこと、なんてことが悶々と語られる。いきなり登場した人物がとってつけたような設定を語り始めたのには最初ちょっとうんざりしたけれど、この妹の想いの描写が濃いので次第に引き込まれていく。

    もう読んだら大体分かっちゃうので少しネタバレすると、この妹もまた少年に近づきたくて、少年が囚われていたものとは違うゲームに自分も手を出していて、そこで自分の世界を持つようになっていた。ゲームを始めるにあたって最初に頼ったクラスメイトの男に惚れられて、ゲーム内の世界では彼とそれなりに仲良く一緒に冒険したりするものの、現実世界では親しくしないでと拒絶している。そんな彼女の世界に、主人公の少年が飛び込んできて偶然出会い、互いの正体を知らないままに交流を深めていき、彼女は少年のキャラにゲーム内で惹かれていく。ところが…みたいな。

    ストーリーは少年にもたらされた一枚のスクリーンショット(ゲーム画面の画像)の場所を目指すことで進んでいく。そのあいだにいくつかの事件が起きるのだけど、ほぼそれらは襲撃によって起こる戦闘なので物語としての面白みに欠ける。主人公の少年がちょっとしたバグとゲーム慣れのおかげでチート的(反則的)な強さを見せつける。

    今回のゲームは8つの種族に分かれて互いにしのぎを削りあう設定になっているので、前回のような犯罪的なPK(プレイヤーキャラ殺し)とは違って純粋にゲーム的なものになっている。8つの種族にはそれぞれリーダーがいてヒエラルキー(階級)があってネット社会での身分制みたいな面白さの片鱗が描かれているのだけど、あまり深く突っ込まれていなくて物足りない。

    ちょっとSM趣向あり。黒幕の男は前作のヒロインであるアスナをゲーム内の世界に閉じ込めているのだけど、わざわざ世界樹の木の枝に鳥かごのような檻を作り、そこへ薄絹一枚にした彼女を幽閉し、たびたび訪れては彼女をなでまわしている。最後の対決シーンでは鎖で吊り下げていたぶる。いいねえ。

    一番盛り上がるのはやはり妹が思い詰めるところだと思う。押さえつけられてきた想い、報われなかった想いがあふれるシーンがすごく良かった。でも、なんか不自然な感じがして引っかかっていた。突然の義妹設定や恋愛感情は置いておくとしても、ゲーム内で出会った少年は最初から恋人の存在をほのめかしていて、そんな少年の必死な思いを彼女はサポートしてきたのに、いざ少年の正体が自分の兄だと気づいてみたらそれを運命の悪質ないたずらであるかのように呪うのはなんか違うような気がした。

    その他の要素もそれなりに面白いもののいまいち微妙というか触れる程度であまり踏み込まれていないので消化不良な感じ。種族のリーダーたちの魅力とか、サラマンダーのユージーン将軍や彼が持つゲーム内最強の武器の一つだとか、内通者の存在、現実世界でも知り合い同士の人々の関係性、今回の黒幕の素性だとか前回の黒幕の顛末などなど。名物キャラやレアアイテムの魅力などについてもっとじっくり描いて欲しかった。なんだかんだで面白く読んだし引き込まれたけれど、引き込まれたほどには内容がなかった感じ。1巻2巻には作者が描きたかったものが割と深く描かれていたように思えたのと比べると、なんだか小さくまとまってしまったように思った。

    そういえば新しいドラゴンクエストシリーズはこんな感じに5つの妖精の種族が出てくるMMORPGなんだよなあ。発売日は2012年8月2日だからタイミングとしてはいいのかも。スクウェア・エニックスがスポンサーやってたらウケる。大コケしたファイナルファンタジー14は一体どうするんだろう。

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