謎の彼女X 8巻まで
植芝理一 (講談社 アフタヌーンKC)
傑作(30点) 2012年9月29日 ひっちぃ
高校生男子・椿明(つばきあきら)のクラスに、あまり社交的じゃない変わった女の子・卜部美琴(うらべみこと)が転校してきた。彼女はすごくぶっきらぼうで、みんなからの誘いを全部断って休み時間は自分の席で昼寝ばかりしていた。あるとき椿明は彼女が放課後によだれをたらしながら寝ている姿を見て急に惹かれ、そのよだれを指でなめてしまう。そのときから彼は彼女と不思議な縁でつながり、仲良くなり、クラスに内緒でこっそり付き合うようになる。少年が女の子にいだくときめきを描いた恋愛マンガ。
アニメ化されたのを見て面白かったので原作に手を出してみた。講談社のアフタヌーンというマンガ雑誌に連載されているらしい。ほんといかにもアフタヌーンらしい作品だなあと思った。
他の作品との明確な違いは「よだれ」。男の子に無防備な寝顔を見られるだけでなく、よだれまでたらして熟睡する女の子の姿というのは、ちょっとマニアックではあるけれど魅力的だと思う。とそこまでならまだ普通なのだけど、この作品の場合よだれによって気持ちや感覚が他人に伝わるという設定になっている。それに気づいた二人は、毎日互いのよだれ、というかもはや口の中に指を突っ込んで唾液を交換するという奇妙な儀式を行うようになる。
こういう二人だけの秘密の儀式ってのはなんだかドキドキするのだけど、まだキスもしたことのない高校生の男女がただ学校帰りに公道で唾液を交換しあうというのはなんだか変態的だ。ネットの声を見てみても、生理的に受け付けないという声が少なくなかった。私もこういう変態的なたぐいの行為は好きなのだけど、指にねっとりからんだ唾液っていうのは絵的に汚いと思った。もし私が高校生に戻れたとして、好きな人の唾液をこんな形で舐めたいなんて絶対に思わないなあ。指を舐めるのはアリだけどw
さてこの作品は青年誌に連載されている恋愛モノなのだけど、主人公の少年が少女に対して一方的にドギマギしたりあこがれたりするのかというとそうでもなくて、最近の傾向なのか知らないけれど少女側の視点でも時々描かれている。でもやはり比重としては少年の方が重くて、少年が少女に対して抱きつきたいと思ったりキスしたいと思ったりする感情をもてあましていて、それを少女が拒否したりして結果的に翻弄する形になっている。しかし、少女の方も少年の気持ちや行為を部分的に受け入れている。それも、少年に許可するという上から目線ではなく、自分もそうしたいからとか嫌じゃないなどと素直に告げている。このあたりが、前世紀の作品とは違っていて、読んでいてほほえましく思えてくる。
そうそう、絵柄は完全に前世紀って感じ。ネットでも言われていた。八十年代っぽい。よくしらないけど、ゆうきまさみっぽい?この絵は大好き。作者も言っているようにヒロインの目つきが悪いのも楽しい。ただ、絵がゴチャゴチャしていて見にくいときがある。背景が結構描きこまれているせいだけど、マンガの技巧的に何らかの方法で背景をもっと奥に追いやったほうがいいと思った。
話を戻すと、それでもやっぱり少年が得たいの知れない少女にほぼ無条件でひれ伏し、彼女が不機嫌な様子を見せれば自分が悪かったと平謝りするし、少女は普通ではありえないような青年誌的な行動をとって少年ひいては読者を魅了する。特に、それほど理由がないのに裸になるシーンがいくつかある。読んでいると、こういうかわいい彼女が自分に対してこんな思い切った行動をとってくれたらすごくドキドキして嬉しいだろうなあ、と思う反面、なにこれありえねー、と突っ込む自分がいる。一言で言うと、すごくいいけど素直に楽しめない感じ。読んでいて時々この話おっさんくさいなと思うことがあった。
ストーリーは大抵日常とその延長線上にあるので淡々と流れていくのが基本なのだけど、いくつか展開がある。まず、少年の親友がこれまたクラスの別の少女と付き合っていて、主人公の少年に色々のろけてくる。それを聞いて主人公の少年は自分も何かしようと思ったりする。しかし主人公の少年は自分にも彼女がいることを親友に隠しているので話が一方通行になっている。一方で親友の相手の少女は主人公の彼女と仲良くなって情報交換するようになる。
中学時代に主人公の少年が片思いをしていた少女と再会してその少女がちょっかいを出してきたり、クラスで委員会活動を一緒にやっているたれ目の少女が主人公に意外な頼みをしてきてから妙にからんできたりするのは良かったんだけど、しまいにはアイドルが絡んできて萎えた。ヒロインに似たアイドルが登場して、普通に男の子と恋をしたい、とかいって自由を求めてヒロインとの入れ替わりをたくらむ、なんてベタもいいところだった。あのいつも機嫌の悪そうなヒロインがアイドルやらされるところだとか、アイドルがプロ意識を語るところだとか、色々ふわふわしすぎてうんざりしたので適当に流し読んだ。
「よだれ」に寄りかかりすぎ。「よだれ」で絆の存在が明らかになるんだけど、だからなんなの?って思う。これって一種のSFなんだろうけれど、こういうSFの使い方ってダメだ。「よだれ」でなんとなく話をいい感じで終わらせてしまうのにはポカーンとした。え?それだけ?みたいな。せっかく現実を延長するんだから、ちゃんと現実に帰ってこないと。極端なことを言うと、二人はなんと前世からのつながりがあったのだ!だから二人は運命で結ばれたんだね!!というのとなんら変わりない。
この作品はなかなか人に勧めづらい。すごくいいんだけど、なにがいいのか説明するのが恥ずかしいし微妙な感じ。「女の子がかわいい」んだけど、なにがかわいいって無愛想だったりスタイルが良かったりするところなんだよなあ。みんながみんなこういうの好きってわけじゃない。ストーリーは悪い方だと思うし、パンツハサミは面白かったけど、そんなに引っ張る要素でもない。でもやっぱりこういうミステリアスな、題名どおり「謎の彼女」というのは、とても魅力的なんだよなあ。そんな不思議な女の子の魅力を抽出したこの作品は、もうそれだけですごくよかった。伝わった?
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