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    はっとりみつる (講談社 講談社コミックス)

    まあまあ(10点)
    2012年10月27日
    ひっちぃ

    ゾンビ映画が大好きな高校生の少年・降谷千紘は、ゾンビ少女との恋愛を半ば本気で夢見るほどのゾンビマニアだった。かわいがっていた飼い猫「ばーぶ」が事故で死んでしまい、家に伝わる怪しい蘇生の秘薬を作って生き返らせようと、近所の廃墟で毎夜研究を続けていた。そこへ近くの豪邸に住むお嬢様がやってきて、彼の研究を手助けするうちに仲良くなり、厳しい父親に戒められて不自由な生活を送りつづけるぐらいならいっそ死んで生き返ってゾンビとして暮らすほうがマシだと言い出す。青年マンガ作品。

    アニメ化されたものを見て、実のところそんなに面白いとは思わなかったのだけど、丁寧に作られた作品っぽいようなところが見受けられ、また絵もかわいくて肉感的でエロかったので、原作はどうなっているんだろうと思って読んでみた。

    結論からいうと、アニメが丁寧に作られていただけのことだった。原作にはアメリカからやってきた美少女博士が割と序盤から登場するのだけど、キャラが微妙で絵的にさほどかわいくない上に、単に意味ありげな解説をしたり解決策らしきものをほのめかしたりするだけでストーリーの進行上ほとんど役に立っていなかったせいか、アニメ版ではバッサリと削られていた。これはアニメ制作者グッジョブだと思った。

    といきなりアニメ版と原作との差異を語り始めてもしょうがないので、話の筋を簡単に解説すると、この作品は基本的にはラブコメで、コメディの部分は自分の彼女がゾンビだからこうなっちゃうんだよみたいなところで笑いを取るようになっている。…はずなんだけど、破天荒なドタバタ系ギャグマンガじゃなくてリアル志向なのでどうしてもシリアスな空気が抜けないし、作者も途中であきらめたのかそんなにゾンビギャグは入れていない。

    ヒロインは不幸な事故で死んで運よくゾンビとして蘇生したわけだけど、この先いったいどうなるのか分からない。体はどんどん傷んでくる。そんな中でヒロインは前向きな考えを持っていて、自由に生きられる今は幸せであり、自分はいつ世の中から消えても構わないと言ってみたりもする。しかし一方でやはり未練も残る。ただ、心に絶望はない。

    主人公とヒロインの二人が急接近するのをみて、主人公の幼馴染でスポーツ少女の左王子蘭子が慌てだし、あの手この手で主人公を自分の肉体で誘惑したり、ヒロインにちょっと意地悪なことを言って牽制したりして割り込もうとする。でも主人公の心はヒロインへと向けられているので悲しい気持ちになるが、決してあきらめたりはしない、みたいな。絵がすごく肉感的でムチムチしていてかわいく、気持ちは強気だけど陰で弱いところも見せるという振り幅が広くてとても魅力的だった。

    この幼馴染キャラに比べると、正ヒロインであるゾンビ少女のお嬢様は、普通の女の子のようにショッピングしたりデートしたりしたい、という強い想いが心を打つものの、なんかいまいち弱い感じがする。厳格で病的な父親が彼女を家に閉じ込めて学校ぐらいにしか行かせていないという描写は十分なのだけど、異常すぎて読者の共感も想像もかき立てにくい感じがした。

    アニメ版ではその病的な父親との対決のあたりをクライマックスにもってきて、あとは原作をうまいこと切り出してびっくりオチで唐突に話が終わっている。このラストはあっけにとられたけれど見事だった。一方原作では、日々劣化していくと言われているゾンビ少女の、体のほうはさすがにボロボロになったらシャレにならないせいか、精神のほうに焦点を当てて悲劇を煽ったり治療の手がかりを探ったりする展開にして物語を進めていっている。あぶなっかしげに。いまのところ場当たり的でそれほど興味を引く展開になっていないので、あまり先を読みたいとも思わない。一応いくつか謎が残っていて、特に主人公が幼い頃に亡くなった母親が実は最後ゾンビになっていたのではないかという疑惑があったり、普段はボケているじいちゃんがたまに覚醒して意味ありげなことを語りだしたりする。

    この作品の最大の魅力は、かわいい少女を本当にゾンビにしてしまったところだと思う。かわいいけどゾンビ。この猟奇性が、大なり小なり読者の持つ変態性に作用して怪しい魅力を放っているに違いない。若い女性が殺された事件が報道されたとき、なにかモヤッとした妖しい感情が起きないだろうか。そりゃ実際目の前で死体を目にしたら引くだけなのだけど。

    表紙の絵を見ればわかるように、ヒロインのゾンビ少女が口と目を半開きにして微笑んでいる絵には独特の魅力がある。

    脇役もそこそこ充実していて、主人公の妹は一見無気力脱力キャラなのだけど母親無き家庭で家事を仕切っているかと思ったら兄思いで甘えん坊なところもあるという複雑な性格なのに自然な感じ。また、妹には親友が二人いて、特にボーイッシュなほうの友達が結構ツボだった。でも本当にチョイ役でしか出てこない。主人公の父親やじいちゃんもいい味でてる。じいちゃんは高橋留美子の作品に出てきそうな感じw 一方でヒロインの邸宅にいるメイドさんたちは楽しげな雰囲気だけどモブっぽくて没個性。

    ヒロインの母親は主人公に自分の身の上をぶっちゃけすぎるので、エロネタのためにこんな不自然な展開にしたのかと軽くうんざりしたけれど、考えてみたら主人公があまりに熱くヒロインを求めているのを見せつけられた上に酔っていたのだから、こういう展開もありなのかなあとあとで思った。うーん、でもおばさんが性欲(?)見せると若い読者は引くよねえ。

    登場人物がことごとくゾンビ映画関連から取られている。主人公の妹の名前「萌路(メロ)」はジョージ・A・ロメロから取っているし、そもそも作品名からして「サンゲリア」から取っている。Wikipediaを見ると色々書かれていて面白いけれど、私自身はそんなに詳しくないのであまり分からなかった。

    となるとこの先の展開もいままでのゾンビ映画の名作に影響を受けたものになるのかなあ。それとも違う方向を目指すのか。ゾンビって治るんだろうか。あ、なおる作品もあるにはあるな。

    とまあここまで長々と語ってきたけれど、この作品は別に読まなくてもよかったと思った。

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