やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 8巻まで
渡航 (小学館 ガガガ文庫)
最高(50点) 2013年12月22日 ひっちぃ
高校生男子・比企谷八幡は、欺瞞だらけの仲良しごっこを嫌悪して一人で自分の殻に引きこもって生きることを選んだボッチ(一人ぼっち)だった。そんな彼のこれからを危ぶんだ担任教師が、別の意味で学園の問題児である学年一の秀才にして美少女の雪ノ下雪乃にやらせている謎の部活「奉仕部」への参加を彼に命じる。「奉仕部」のもとへポツポツ訪れる依頼者に対し、彼は独特のアプローチで解決を図っていくが、すっきりと解決せずに問題意識を掻き立てる。一応ラブコメのライトノベル。
まずだらだら概説するのももどかしいのでいきなり言わせてもらうけれど、これぞ自分の待ち望んだタイプの作品だった。素晴らしい。一通りラブコメしつつ、浮世のしがらみに切り込んだ文学的な作品になっている。しかも、悩むことがかっこいいみたいな自己陶酔的なものではなく、かっこわるいとされるボッチ(一人ぼっち)の問題を踏み込んで扱っている。
2013年7月にアニメ化されたのを見て、最初あまりにできすぎたツンツン美少女が出てきてうんざりしたけれど、主人公の男のネガティブぶりに笑い、すぐに好きになった。事件を解決するための意外な切り口が話として面白いし、仲良しこよしの欺瞞に対して鋭い切り込みをしつつも、そんな欺瞞の中で一生懸命がんばっている様々な人物に対しても暖かい視点があり、どっちかを無条件に肯定するといった一方的なことなく描かれている。
ヒロインの位置には二人の少女がいる。一人は学年一の成績を誇りなおかつ美少女という最強のキャラづけがなされた雪ノ下雪乃。しかし彼女はその名前のとおりとても冷たい性格をしている。あまりに能力が高くて容姿が良いため周囲からやっかまれ、彼女自身まわりの努力しない人間を嫌悪しているため、一人孤独に生きている。そんな彼女のことだから、主人公のことも常にクソミソにけなす。しかし主人公の男はその言葉にへこみながらも悪意に対して抗体があり諦念もあるのでむしろ普通に彼女とかかわりあっていく。
もう一人はボッチとは対極にいるかわいい女の子・由比ヶ浜結衣で、クラスではスクールカースト(学校内の階層社会)の最上位にいるものの、下にいる人間に対して見下すことなく、常にまわりの空気を伺ってオドオドしている。本来であれば彼女のようなリア充(現実世界での生活が充実している人のこと)が主人公のようなひねたヒッキーとかかわりあうことはないはずだが、彼女には彼に対してとある負い目があった。…というのが確か一巻の話だったっけ。
クラス内の上位グループが結構ありのままに描かれている。クラスの女子のボスとして君臨するギャル属性の三浦優美子は、自分の気に入ったかわいい女の子たちを周りに置いて同調圧力を掛けている。サッカー部の部長でイケメンかつ人格者の葉山隼人の周りには取り巻きたちがいて仲良くしているけれど、彼自身がいないところでは取り巻き同志はそんなに仲がよくない。ほかには、クラスの女子の二番手グループを結果的に取りまとめているものの、トップグループに入り損ねたことに負い目を感じて逆転を狙っている相模南なんてキャラも。でも下位グループについては主人公の周りの変わり者たち以外は描写されていないか。
流行りの「男の娘」「腐女子」「中二病」「妹」といった定番キャラも多い。
この作品で扱われる中で一番典型的なエピソードを紹介すると、主人公たちが担任教師の頼みで小学生の飯盒炊爨を手伝うことになり、「奉仕部」の面々に加えて葉山隼人らリア充組も合わさって、子供たちのおにいさんおねえさんとして付き添っていく話がある。小学生たちは何人かずつ班を組んでいる中で、あからさまに班からハブられている女の子がいたので、主人公たちはなんとかしようとする。リア充の葉山隼人はたちまち子供たちの人気者になり、その人徳を活かして孤独な少女も輪に入れようとするがうまくいかない。その様子を見てそんなの当り前だと達観する主人公は、ひねくれた人間にしか思いつかない意外な方法を提案してみんなから反発されるが、最終的にそれしかないとなってみんなで実行する。なにげに人間の真実がそこにあってハッとさせられる。
ボッチ(一人ぼっち)の人間の思考パターンが生々しい。朝学校に来ても友達と話すことなく教室で寝たフリをしつつも人の会話には耳をそばだてていたり、昼休みに誰も来ない場所を確保して一人で食事をしたり、体育の授業でペアを組むときのこととか、どうせ人から誘われないけれど誘われないように念のため気を配ったり。これが結構明るい一人称で語られていて、まったく深刻さはないのだけど、まわりの人間たちはみんな彼のことを一目置きつつも心配していく。彼のネガティブ思考はいったいどうなるのだろう。
もう一人、主人公の担任教師から問題児扱いされて「奉仕部」の部長をしている秀才美少女の雪ノ下雪乃の問題も少し扱われている。不愛想で孤独な彼女には、逆にものすごく外向的で明るくて友達が多い超絶リア充の姉・雪ノ下陽乃がいた。陽乃はなにかと雪乃にちょっかいをかけ、雪乃は陽乃のことを苦手としており避けているが、実は陽乃はこの不器用な妹のことをとても気にかけていて、一方の雪乃も姉のことを尊敬している。このひねくれた姉妹関係に主人公も巻き込まれる。…と面白そうな展開ではあるのだけど、8巻まで進んでも大した進展は見せずガッカリ。
ギャグが面白い。千葉を舞台にしていて、主人公は千葉のことを愛しているのでやたらと千葉のマメ知識が自虐的に語られる。MAX COFFEE(千葉発祥のやたら甘い缶コーヒー)とか落花生(生産高日本一)とか伊勢海老(伊勢なのに千葉が水揚げ日本一)などといった無駄知識。あと、ちょっとしたサブカルネタがさらりと一文で書かれていて、知っているとニヤリとできて面白い。冷血少女・雪ノ下雪乃の辛辣な言葉に心の中であらがったり、女の子よりかわいい男の娘の戸塚彩加のことをやはり心の中で絶賛したり、妹の小町ちゃんをアホみたいに溺愛したり、中二病の友人にものすごく冷たくしたりと、笑うところがたくさんある。
主人公の男は相当重症なので、きっとまともな人間には戻れないのだろうけど、じゃあいったいどのあたりに着地するのだろうか。ほろ苦くも暖かい終わり方になりそうな感じ。8巻でなんとなく話が終わりに近づいていることをほのめかされた気がするのだけど、話としてはまだまだ最後が見えてこない。もっともっと掘り下げて長く楽しませてもらえることを期待している。
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