エルフェンリート
岡本倫 (集英社 ヤングジャンプ・コミックス)
傑作(30点) 2014年6月14日 ひっちぃ
空想近未来の日本で、ごくまれに超能力を使える子供が生まれ、3歳まで育つと本能により自分の親を殺してしまうため、捕獲して研究所に閉じ込めて研究をしていた。その中の重要な個体が搬送中に逃亡した。非人道的な実験により憎悪を抱いていた彼女だったが、急に退行して大学生の少年コウタのもとに居候するようになる。青年マンガ。
海外の反応系のブログで、悲しいマンガを外人が色々挙げていっている中にこの作品があって、興味を引かれたので読んでみた。今期アニメ化された「極黒のブリュンヒルデ」と同じ作者の作品だった。
正直言って、とても気持ち悪くて、面白い作品だった。
なにが気持ち悪いって、素っ裸の少女に枷をつけて鉄球をぶつけて超能力の強度を調べる実験だとか、義父の言われるままに裸になって四つん這いになって性器を広げさせられる少女だとか、生きたまま改造されて道具として使われる少女だとか、とにかくこの作品に出てくる少女たちは悲惨な目にあっていること。肉体的なことだけでなく、精神的に従属したりさせられたり依存したりしている。そして解放されて主人公のもとに行ったら行ったでハーレムを形成して結局男を頼りにしていること。
人間の強い意志や感情、特に極限状態におかれた時のそれはとても尊くて美しい。ことにそれが魅力的な異性であればなおのことなのだけど、なんていうか物事には限度っていうものがあると思う。さすがにちょっとこの作品は針が振り切れていると思う。ここまでくると引いてしまう。でもこのエログロには惹かれてしまう。
グロのほうもすごい。いきなり首ちょんぱ(死語)。「ベクター」という超能力による不可視の手を操作するのだけど、力がものすごく強いので人間の体なんて簡単に壊してしまう。手や足も普通にもげる。描写もすごくて、折れた腕の骨が露出していたり、もげた首が床に転がっていたりする絵なんかが普通に描かれている。
そしてそんなふうに超能力で人間を人形のように壊していった少女が、急に「にゅう?」とか言って退行して普通に主人公のもとで暮らし始めるという異常な振り幅。この作者は頭がおかしいんじゃないかと思う。でも読んでしまう。
この少女は主人公の大学生コウタから「にゅう」と名付けられ、一方で研究所ではルーシーと呼ばれていたが、彼女をめぐって様々な人々の思惑がぶつかり合う。話の大筋としては、研究所とそのバックにいる国家権力が彼女を取り戻そうとして、彼女のことを捜索して戦闘になる。退行した彼女は「にゅう」として主人公のもとで平穏に暮らし、国家権力の目から逃れられるのだけど、ひとたび覚醒してルーシーとなると超能力者同士の感覚によって大体の居場所が分かってしまう。そうすると国家権力側は特殊部隊を送り込んだり、同じ研究所育ちの無垢な超能力少女を刺客として送り込んだりしてくる。
しかし国家権力側も一枚岩ではなくて、ルーシーに執着する特殊部隊の隊長坂東がコントロールを離れて個人の意志でルーシーを殺そうとしたり、研究所に閉じ込められている超能力少女の一人に特別な感情を抱くあまり上からの命令にあらがおうとする室長蔵間がいたり、超能力少女を新しい人類のあけぼのだとして追い求める一派がいたりする。
一方で主人公の大学生コウタには、幼馴染の女ユカがつきまとっていて想いをぶつけてくるのだけど、コウタは幼少の頃に謎の事故にあって父親と妹を亡くしており、そのときのショックで記憶を一部失っているせいでユカの想いに応えることができない。二人の前に現れた「にゅう」がまるで赤子のようで危なっかしいため、コウタは「にゅう」を頻繁に構うようになり、それを見てユカは嫉妬する。
ほかにもサブヒロインとして何人か出てきて、それぞれ見せ場とか展開がある。複数の女の子たちが主人公コウタのもとに集うのだけど、コウタを好きなのはユカと「にゅう」だけで、あとのマユとかナナとかノゾミとかは単に居場所を求めて来ただけで、コウタじゃなくて別の登場人物と親しくなっている。戦闘シーンの比重が大きいため、日常っぽいエピソードはほとんどない。かわいい女キャラだけでなく、一週間以上風呂に入らずパンツ一丁で歩き回る女研究者がいてギャグとかエロをかましてきて笑った。思い返してみると登場人物が豊富でそれぞれ色んな小話が展開されていて面白い。
物語は最終的に主人公コウタの失われた記憶の謎にたどり着いて、終盤ひとしきり盛り上がってから終わる。人が簡単に死んだり壊れたりする作品なのに、思いのほか話の筋と肉付きがよくて、エロとグロが一番の特徴なのにそれらがなくてもたぶん十分に楽しめたんじゃないかと思う。
でもまあ正直言うとこの作品のエロとグロは結構魅力的なので、それがなくなるとどうなるか分からないのも確かで、気持ち悪いと言って目をそむけながらも見てしまう。読んでいて生理的に嫌悪感を抱くこともたびたびあったけれど、それも含めて背徳的な楽しみ方ができた。この作品を誰かに勧める気にはなれないけれど、ここまでの説明を読んで興味を持った人なら読んでみるといいと思う。
|