ベン・トー 4巻まで
アサウラ (集英社 スーパーダッシュ文庫)
いまいち(-10点) 2014年7月5日 ひっちぃ
早くひとり立ちしたかった少年・佐藤洋は、実家から離れたところにある高校に進学して一人暮らしを始めたが、実家からの仕送りは少なく食費を切り詰めていた。近所のスーパーで夜売れ残った弁当に半額シールが張られたのを見て手を伸ばすが、何者かに攻撃されて昏倒した。そこには少年の知らなかった半額弁当を巡る狼たちの戦いがあった。ライトノベル。
以前アニメ化されたのを視聴して、なんてバカバカしい戦いを扱った作品なんだと思いつつも、世界観がしっかりしていることに驚き呆れ、なんだかんだで見続けてしまった。しかしやっぱり途中で面白くなくなったので結局見るのをやめてしまった。アニメでは表現できないもっと面白い要素がこの原作小説にはあるのではないかと思って読んでみた。
夜のスーパーで半額弁当をめぐって戦うのがこの作品の主題なのだけど、ちゃんとしたルールがあるのが面白い。まず、半額シールを張るスーパーの店員のことを「半額神」と呼んでいる。この半額神が半額シールを弁当に張ってバックオフィスに引っ込むのを待ってから戦闘が始まる。このルールはなんというか紳士協定なので破る人もいるけれど、そういうのは「豚」と呼ばれて蔑まれる。また、主婦なんかは図々しくも半額神に対して早く半額シールを張れと要求したりするのだけど、こういう存在もまた「大猪」という化外の存在として無視される。あくまでこの場のルールを守る者たちによってのみ戦いが行われる。
この戦いというのが文字通り戦いであって、打撃だろうと投げ技だろうとなんでもありのバトルロイヤル(全員敵)になっている。ここからがファンタジーなのだけど、この場でルールを守って戦いに参加する者たちには、空腹の加護という特別な力が与えられ、普段とはかけ離れた力を使うことが出来る。体格や力で劣る女であっても男を吹っ飛ばせるほどの戦闘能力を持てる。
勝利条件は、弁当を手にすること。ひとたび手にすると、勝者とされて誰からも攻撃を受けなくなる。ただし手に出来る弁当は一人一つまで。だからといって、速攻勝負になることは少なく、たいていの場合相手をノックアウトする必要があるほど激しい戦いになる。武器はスーパーに常備されているカゴは使っていいらしい(笑)。
有力なプレイヤーともなると、その名が轟いて二つ名と呼ばれるニックネームで呼ばれることになる。「魔導士(ウィザード)」「帝王(モナーク)」とか色々ある。でもかっこいいように見えて実はしょうもない由来の二つ名が結構あってウケる。
1巻は主人公の佐藤洋がこの半額弁当を巡る戦いと出会って、同じ高校のHP(ハーフプライサー)同好会の会長である槍水仙という先輩女性の教えを受けて、他方で「ダンドーと猟犬群」の誘いを受けつつも自らの道を決めるまでを描いている。
ヒロインはこの槍水仙という、勝気かと思いきやちょっと自信のないところも見せる先輩女性かと思いきや、著莪(しゃが)あやめというハーフのパツキン(金髪)の従姉妹にして幼馴染が2巻から出てくる。主人公は著莪とは距離が近すぎて親友以上の関係にあり、少なくとも自分が読んだ4巻までだと恋愛対象とは互いに思っていない。アニメ版を見たときに思ったのだけど、槍水仙がヒロインとしてこれから主人公との距離を縮めていくのかと思い始めた矢先にこの著莪あやめが出てきて、なんだかよくわからないことになってしまった。
そうそう。主人公の性格なのだけど、どうやらアホキャラらしい。セガのゲームを愛し、保身のためなら友人を犠牲にすることをためらわない。スーパーで同じ学校の少女・白粉花と偶然知り合い、狼たちの戦いに二人とも巻き込まれたことから、不思議と二人で相談しあう仲になる。でもこの白粉花はホモネタが大好きで、裏で佐藤洋をモデルにした筋肉刑事(マッスルデカ)というオリジナル小説をネットに書いている。スーパーでの戦いも小説のネタ集めのために最初は参加していた。白粉花には白梅梅という次期生徒会長有力候補の女という強力な保護者がいて、こいつはことあるごとに佐藤洋に突っかかって暴力で打ちのめしてくる。それを見てうらやましがるマゾヒストの内本くん。この作品はコメディみたいなので、色々小ネタが挟まれている。正直全体的にあんまり面白くはないのだけど、白粉花がホモネタに走ったり、佐藤洋が屈強な用務員からお尻を守る場面なんかは面白かった。でも井上堅二「バカとテストと召喚獣」みたいな優れた作品を読んでしまうと、ラブでもコメディでも見劣りしてしまう。
じゃあこの作品のどこがいいのかというと、登場人物が独特であまり型にはまっていないところだと思う。悪く言えば中途半端で洗練されていないってことになるんだけど。槍水仙というちょっと無茶を言う多少わがままでかわいげのある女の先輩と、あまり大したことを考えていないアホキャラの主人公が、放課後に時間を持て余して部室で二人で将棋とかテーブルゲームで延々遊ぶとか、そこに恋愛感情を意識していない幼馴染が割り込んだり、男同志の熱いホニャララにしか興味がない女の子が我関せずと一人でパソコンに向かっていたりといった雰囲気がいいっていうなら楽しめると思う。
でもたったいま気付いたんだけど、メインストーリーに主要登場人物がほとんど絡んでいないという。1巻以外は毎回ゲストが出てそいつのドラマが盛り上がって終わる。4巻まで読んでも、槍水仙や著莪あやめや白粉花といった主要登場人物のドラマがほとんどないので愛着を持つのが難しい。各巻を盛り上げたゲストはその巻だけで大体退場してしまい、その後はちょい役でしか出てこない。長編の利点が活かされていない。
2巻は先代の「帝王(モナーク)」に仕えていた「ガブリエル・ラチェット」の想いが中心に描かれるほろ苦い話なのだけど、描写が分かりにくくてぼんやりしていて歯がゆく、結局この男の想いにそんなに共感できなかった。いや、読んでいて頭では分かったのだけど、感情が湧きおこらなかった。
3巻は「オルトロス」と呼ばれる二人姉妹の物語に主人公たちが絡む。これも悪くない話だと思うのだけど、中学生の姉妹が最強の名を欲しいままにしていたという設定がそもそも無理があるように思えてならず、最後まで違和感がぬぐえなかった。「ヘラクレスの棍棒」とかカッコいい二つ名だし展開も良かったんだけどなあ。
4巻は合宿で山に遠征する。宿泊先で二人の少女が喧嘩をしていて、その仲裁をしようとする。これも筋書として今野緒雪「マリア様がみてる」っぽい自分好みの話なのだけど、頭では理解できても気持ちが入っていかなかった。二人の行き違いの描写がほとんど地の文中心で進んでいっているからなんじゃないだろうか。そもそもこの二人の感情が複雑で難しいと思う。せめて分かりやすく少女視点でエピソードが描かれていればもっと入っていけたんじゃないかと思うんだけど。
で4巻まで読み終わって、なんだか自分がこの作品を十分に楽しめていないことに気付いて、読むのをやめることにした。
結局のところ、スーパーの半額弁当を巡る戦いを描いた作品に、主要登場人物のドラマなんて期待しちゃいけなかったんだろうか。この作品がラブコメだったらまだいいんだけど、恋愛要素が大してなくコメディで押しているのに、他に楽しめる要素が少ないって、じゃあいったいどこで楽しめばいいんだろう。コメディでもっと笑えないとダメってことなんだろうか。
4巻で喧嘩している少女たちに著莪あやめが自分と佐藤との関係を重ね合わせる場面があるけれど、あくまで焦点がゲストの少女たちに当たっているので、著莪あやめのドラマになりそこねていると思う。ここをしっかり読めば著莪あやめに感情移入できるのかもしれないけれど、自分は読んでいてちょっと説明的すぎて入り込めなかった。
でもって4巻の少女がなんと著莪あやめと同じ高校に進学することになるのだけど、自分は5巻以降を読んでいないのでWikipediaの解説を読んだ限りだと、せっかくフィーチャーされて読者の心に刻み込まれたはずのこのキャラがその後たいした活躍もしていないようなのだ。こういうおいしい後輩キャラがシリーズを盛り上げていくのがシリーズ小説ってもんじゃないんだろうか。
なんか随分ダラダラと書いてしまったのは、自分がこのシリーズを好きになりそこねたからで、主要登場人物に少し愛着を持ったものの欲求不満をこじらせたからなんじゃないかと思う。ああこれは読者の身勝手というやつなのだろうか。槍水仙が風邪をひいたときに主人公が急に押しかけていつもと違う無防備な姿をさらすところとかすごく良かったのになあ。読んでも寸止めされるだけなのがイライラする。主人公天然だし。
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