WHITE ALBUM 2 アニメ版
監督:安藤正臣 脚本:丸戸史明 原作:AQUAPLUS
傑作(30点) 2014年8月23日 ひっちぃ
品行方正で成績優秀な学級委員の高校生男子・北原春希は、高校生活最後の思い出づくりに、軽音楽同好会に入ってバンドをやろうとするが、不仲が元で瓦解してしまう。諦めきれずにギターを練習しながら代わりのメンバーを探しているうちに、屋上で歌っていた学年一の美少女・小木曽雪菜と、いつもクラスでふてくされて昼寝ばかりしていた元音楽特待生の冬馬かずさと出会う。ゲームが原作のアニメ。
ゲームというか恋愛アドベンチャーというかエロゲーが原作。舞台演芸が劇から映画からテレビになったように、時代の移り変わりとともに新しいメディアが隆盛しては没落するサイクルがある中で、いまゲームの世界はというと同人というセミプロがフロンティアなのかもしれないけれど、エロゲーもまた低予算で自分たちの作りたいものを作って活発になっていた。もう下り坂に入ったのかもしれないけれど、面白そうな作品があれば積極的に手に取ってみようというアンテナだけは張っていたところ、去年の年末頃にこのアニメ作品が放映されていたので見てみた。というか録り貯めていたのをさっきやっと見終わった。面白かった。でも、エンコードして取っておくほどでもないかと思ったので、消す前に感想を書いて残しておくことにする。
全13話構成で、ちょうど前半がバンド結成から練習から学園祭本番までを描いている。じゃあ後半はというと、前半で仲良くなった男一人と女二人とのもつれた物語になる。
男の北原春希はまじめな学級委員だけどコミュニケーションスキルが高くてちょっとおっちょこちょいでさわやかなイケメンって感じ。バンドの崩壊に直面するも放課後一生懸命ギターを練習し続けていると、いつのまにか自分の練習するギターにあわせて弾いてくれる第二音楽室の謎の生徒の存在に気付く。その正体が実はクラスでいつもふてくされて昼寝している元音楽特待生で家庭に問題を抱えていた冬馬かずさであることが分かり、何度も断られながらも自分のバンドに誘い続ける。そして二人の演奏にあわせて屋上で学年一の美少女・小木曽雪菜が歌っていたのでこいつも誘う。
バンドに入ってくれることになった冬馬かずさは、本番まで時間がなく北原春希のギターがあまりにヘタくそなので厳しく指導したり突き放したりする。冬馬かずさがなかなか心を開かないのを北原春希が辛抱強く付き合っていくのが前半の物語の芯になっている。
一方で太陽のように明るい存在である学年一の美少女・小木曽雪菜は、二人とともに一つのことを成し遂げたことにより冬馬かずさとの生涯の友情を感じるに至り、そして北原春希に対しては恋心を抱くようになり、その帰結として彼女から北原春希に告白して交際を申し込む。こうして三人はよりいっそう親密に友情と愛情を持った関係を続けていくことになるのだが…。
男一人に女二人なのだからもう想像はつくだろうけれど、物語が進むにつれていわゆるNTR(寝取られ)的な感情が昂ぶってきて悲劇的な話になっていく。冬馬かずさの物語前半での行動描写と物語後半での心理描写とのギャップ、そして小木曽雪菜の一生懸命な行動と自己欺瞞が胸を打った。
正直前半はそんなに特別面白い話じゃなくて、バンドの先行きが不透明で主人公が色んな努力をするのは展開として多少面白くはあるのだけど、あまりに毒気がなくてまじめすぎる主人公が一歩一歩成功への道を踏みしめていくのは少し不快(笑)な感じもする。家庭不和の中で育ったために性格がすさんでいる冬馬かずさと、アッパーミドルな暖かい家庭で育ったためにかわいいけれど面白味のない女である小木曽雪菜がひたすら描かれる。それがようやく第7話から転換するので、ここまで見ないとこの作品の本当の魅力が伝わってこない。
ケチをつけると、まずオープニングテーマ、上原れな「届かない恋 ‘13」が最悪。途中で聞きたくなくなる曲なんていったい何年ぶりだろう。歌手にほとんど魅力がないのもそうなのだけど、そもそも駄曲なので誰が歌ってもダメだと思う。特にサビ。コーラスの低音パートを主旋律にしてしまったかのような地味で陰鬱でなんの魅力もないメロディラインがひどすぎる。
最終話あたりになんとエロシーンがある。テレビ放映では影が掛けられてほとんどわからないのだけど、ほのめかされているだけでうんざりする。そりゃ恋愛の当然の帰結としてそういう行為はあるのだろうけれど、少なくともこの物語を見ている視聴者にここで見せるようなものではないと思う。そもそもこのアニメ版はWikipediaによるとエロのないPlay Station 3に移植されたバージョンがもとになっているはずなのに、なぜ急にここでエロを入れたんだろう。エロゲーメーカーのアイデンティティでも主張したくなったんだろうか。このエロがなんとも暗くて場違いなんだよなあ。最近のエロマンガの中にはヘタな恋愛マンガよりも魅力的なストーリーを持った作品がごろごろしているのに比べると、なぜこの作品はこんなにエロの見せ方がヘタなんだろう。キスシーンですらちょっと不快に感じる。ディープキスだからなんだろうけど。
Wikipediaを見るとアニメ化されたのは第一章だけらしい。二章のあらすじを読んでみたらなんかこっちも面白そう。ゲームを買ってプレイしろということなんだろうか。まあこのアニメ版ってゲームの販促のために作られたものだろうからそうなんだろうな。だったらもっと積極的に「つづきはゲームで」みたいにやったらいいのに、節操ないことはしたくなかったんだろうか。
ちなみにこの作品、題に2とあるけれど、初代とは背景世界だけ同じで物語としてはなんのつながりもないらしい。
悲しい恋愛ものが好きで時間がある人は見てみるといいと思う。
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