永遠の0 (テレビドラマ版)
制作:テレビ東京 原作:百田尚樹
まあまあ(10点) 2015年3月18日 ひっちぃ
実の祖父は太平洋戦争で特攻により死んでいた。いままで祖父だと思っていた人物からそれを知らされた姉弟は、昔の戦友たちへ聞き込みをして実の祖父のたどった足跡を追っていく。2006年に原作小説が出版され、2013年に映画化されて大ヒットした作品を、テレビ東京が2015年にテレビドラマ化したもの。
作者は放送作家をやっていた百田尚樹で、小説デビュー作。文庫本の販売部数が三百万部を超える大ベストセラーとなった。小説の方を読めばよかったのだけど、伝え聞くあらすじにそんなに興味を惹かれなかったので、このテレビドラマ版が放映されたのを一応録画だけしていて、さして評判にならなかったので見ずに消してしまおうかと思っていたのだけど、他のことをしながらダラダラ見ることにしてようやくさきほど数時間の視聴が終わったので感想を書いておくことにする。
実の祖父である宮部久蔵がなぜ特攻をしたのか?という謎解きが筋になっている。最初に話を聞いてみると、この男が逃げてばかりの卑怯者だというので、姉弟はわけがわからなくなる。まあ普通はそれでも最後は仕方なく特攻したんだろうぐらいにしか思わないんじゃないかと思うんだけど、作者は現代人の感覚をこの姉妹に代表させて話を進めていて、真実にたどり着くまでを描いている。
この姉弟を広末涼子とあと桐谷健太という東幹久のまがいものっぽい外見の俳優が演じているのだけど、なんかいまいちなんだよなあ。姉のほうは不本意な結婚へ向かおうとしていて、弟のほうは司法試験に落ち続けて先が見えない状態なのに、その切迫感が妙にしらじらしく思えてならなかったし、こいつらの物語なんて心底どうでもよかった。せめてもうちょっと彼らに思い入れを抱けるような何かが欲しかった。
姉弟に限らず俳優陣が軒並みいまいちで、終始話がうそくさく感じてならなかった。柄本明とか伊東四朗なんていう大物も出ていて、もちろんうまいんだけど、なんでこんなにリアリティがないんだろう。演出が悪いからなんだろうか。特に伊東四朗の役は回想編と現代編とで差がありすぎて同一人物に見えなかった。昔の戦争映画に出てくる日本兵と比べると差がありすぎる。中国でいまだに作られ続けているという抗日映画に出てくる日本兵のほうがまだ本物っぽいと思う(主役を差し置いて日本兵役の俳優が一番人気あるというのがウケた)。現代編に出てくる老人たちもよくドキュメンタリーに出てくる本物の元日本兵と比べると戦争を生きた世代には見えないし、回想編はみんなこぎれいすぎる。せめて美術をなんとかしてほしかった。
あと吉本の芸人を使わないで欲しい。演技は悪くないんだけど先入観が勝っちゃうので。たとえばTKOの木下なんてハマり役なのかもしれないけれど、芸人やってるイメージが強いので物語への没入が阻害されてしまう。もうあの顔を見るだけで笑ってしまう。
ゼロ戦の装甲が薄いとか航続距離が長すぎるとかミッドウェイの雷装爆装転換の愚なんか、末端の兵士が普通抱くような疑問じゃないと思った。こういう細かいディテールから全体がうそくさくなっていくのだと思う。
結局なぜ実の祖父が特攻を選んだのかがよく分からなかった。いや一応の答えはなんとなく分かるんだけど、あんまりはっきりしていないと思うし、はっきりさせたところでちょっと意味不明なところがあると思う。原作小説ではどうなっているんだろう。もやっとしたまま感動で押し切ったんだろうか。それとも、史実や記録に忠実でありたいがために、彼らの気持ちを勝手に創作することをためらったからだろうか。だとしたんだったら架空の人物ということで作って欲しかったなあ。うそくさくなるかもしれないけど。
と色々とケチをつけたくなる作品だったのだけど、感動したところが一つあった。それは、マスコミ批判をしっかり描いていること。新聞が戦争を煽ったのに、戦後になって手のひらをかえすように偉そうな態度で国民に戦争の反省を促しているどうしようもない態度を、老人の一人に痛烈に批判させている。不遜なマスコミ人の熱演が素晴らしかった。山口馬木也という人らしい。見ていてほんと憎らしく思えた。日本のテレビ局はどこかしらの新聞社と資本関係があったり提携しているもので、なかなか新聞社への批判が起こらないという問題がある中、テレビ東京もまた日本経済新聞と関係が深いのにも関わらず新聞社批判を描いているのはすごいと思う。
空戦とか戦闘機とかが意外と再現されていた。ウソっぽいことに変わりはないのだけど、見る側がちゃんと心得ていればそれなりに見れる絵にはなっていたと思う。じゃあ衣装も見る側が騙されてあげればいいじゃんと思うところかもしれないけれど、そこはそんなに不可能じゃないんだからもっと力を入れられるところだし入れるべきところだと思う。
なんだかんだで地上波で放映したのもよかったと思う。アメリカの戦後政策の影響で、戦中戦前の日本を悪く思う人々がいまだに多く、特攻も「軍部」に強制されて行かされたという負の歴史のみしか語られない中で、故郷や家族を守るための想いという尊い面にも光をあてるような作品をもっともっと作ってみんなの意識を変えていかなければいけないと思う。それがまわりまわって日本国民の過剰な軍隊アレルギーを和らげ、国を守るという当たり前のことを当たり前に出来るようにならなければならない。まあそんな心配をしなくても、社畜の多い日本だから次に戦争になっても相変わらず強いと思う。また似たような理由で負けそうな気がするけど。
(最終更新日: 2020年4月16日 by ひっちぃ)
|