ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った? 13巻まで
聴猫芝居 (KADOKAWA 電撃文庫)
まあまあ(10点) 2017年4月25日 ひっちぃ
高校生の西村秀騎はクラスではオープンなオタクとして高くも低くもない地位で過ごしていた。そんな彼が熱中していたのはMMORPGというネット上の架空の世界で一度に数千人のプレイヤーが遊ぶジャンルのゲームで、ナイトのルシアンとして振る舞ってゲーム仲間と仲良くしていた。そこで出会った一人の女キャラクターに熱を上げて告白したが、手ひどく振られた。ネットと現実とは違うんだと一応の踏ん切りをつけるが、今度は逆に自分がゲーム内で求婚される。ライトノベル。
2016年にアニメ化されたのを見て、まあそれほど面白かったわけではないのだけど、最近またMMORPGのファイナルファンタジー11をやっていることもあってか気になるようになって読んでみた。ちなみにファイナルファンタジー11は15年も前に開発されたゲームで、その後も拡張ディスクとか色々発売されてずっと続いてきたのだけど、最近になってついに新しい開発が止まった。自分はとっくに遊ぶのをやめていたのだけど、色々遊びやすくなったというし、未プレイの部分が結構あったので最後にまとめて遊んでおこうと思って復帰していま遊んでいる。その話はまた別にすることにする。
この作品の目玉は、ゲームの中で出会った女キャラのアコと仲良くなって現実で会ってみたら美少女だった、というネットゲーマーにとって夢のようなシチュエーションを描いているところなのだけど、なんと彼女がゲームと現実を混同していて、ゲームの中で結婚したので現実でも結婚したものと思い込んでいるという、いわゆるヤンデレヒロインを扱っている。
本来なら歓喜するところなのかもしれないけれど、主人公の西村秀騎少年はかつて自分もゲームと現実を混同し、ゲームで入れあげた「猫姫」というキャラのプレイヤーに告白したものの、彼女から現実では自分はおっさんだと告げられてショックを受け、その衝撃から立ち直るために「ゲームはゲーム、現実は現実」だと割り切ろうと決めていた。また、ゲームの中では頼りになるナイトだけど、現実では頼りにならない一介の高校生であって、アコの期待に応えることは出来ないのだと思っていた。
という少年少女の奇妙なロマンスを軸に、現実とリアルを横断して様々な出来事が起きてみんなが右往左往する。まず、そもそも西村少年とアコが出会ったのは仲間内のオフ会つまりゲーム外で集う会に参加したからであり、会ってみるとなんと仲間全員が同じ高校の生徒で、しかも男だと思っていたシュヴァインが女だったという出来過ぎた状況が判明する。そんなこんなで、アコにゲームと現実とは違うのだと分からせるためにネットゲーム部を作り、部の存続のために顧問を探したり合宿したり新入部員を探したりする。
一方でゲームの中では攻城戦があったり、ハウジングイベントで家の飾り付けを競ったり、バレンタインイベントでボス戦に挑んだり、外部の人と組んで大人数で大ボスを攻略しようとしたりする。このあたりは実際にMMORPGをやったことがあるとすごくよく分かって面白いのだけど、やったことない人にはどのくらい分かるんだろうか。まあ割と丁寧に説明されているので大体分かりそうなものだけど、実際のプレイヤー間の連帯意識とかプレイ熱みたいなものはやってみないと分からないかもしれない。
で、そろそろ批評というか感想に入ると、自分はヒロインのアコがやっぱり好きになれなかった。序盤はヤンデレ具合がひどすぎて頭おかしかった。友達がいなくて不登校気味で、学校ではクラスメイトともロクに話せない。ゲームの中で西村秀騎に世話をされたことで愛情を感じ、この人だけは自分を裏切らないと思い込む。また、ゲームもヘタで努力もせず人の言うことを聞かず見た目重視のかわいい装備しかしない。でも話が進むにつれて変わってくるほか、彼女は彼女で本質を突いていたり、実は家事とくに料理が得意であることが分かったりする。クラスでも周りの協力でなんとかやっていけるよう努力し始める。それに、自分の欲をさらけ出す素直さを持っている。こう書いてみるといい感じだけど、最初から読んでいくとやっとイーブンって感じ。
シュヴァインの中の人は兄の影響でゲームとかに興味を持った女の子なのだけど、なぜ女なのに男キャラを選んだのかを語るシーンが良かった。あと、彼女は自分がゲームをしていることをひた隠しにしているのだけど、仲の良い友達にバレてその友達までゲームするようになり、男キャラでロールプレイしているところを笑われるところなんかがすごくよかった。それと、兄のことを普段友達の前では「兄貴」と言っているけれど、ふとしたことでつい「お兄ちゃん」と言って慌てて言い直すところが超萌えた。
ギルドのリーダーであるアプリコットは容姿端麗頭脳明晰そのうえ大金持ちの完璧超人なお嬢様なんだけど、そのせいでクラスメイトから憧れられて距離を取られ、また自身でも親の教えに従って友達はよく考えて選ぶと決めていたせいでこの年になっても友達がおらず、真面目バカであることがメンバーから看破されてひどい扱いを受けるのが良かった。
ネットゲーム部の顧問になる女教師も同じゲームをやっていたということが分かる。現実では相手がいないのにゲームの中では超人気者なとことか面白い。そういえば自分もドラクエ10をやっていて小学校の先生だという人に会ったことがあった。生徒についてどう思うか聞いてみたら、いいやつらだと言っていたのが印象に残っている。
主人公の妹とかその友達の女の子とかも出てくる。ただ、主人公のことを悪からず思っているのに、川原礫「ソードアート・オンライン」のような突き詰めた感じにならず、なんとも言えない距離感になっている。この作品、登場人物だけ見ればいわゆるハーレムものなのだけど、ヒロインのアコ以外は特に脈なしというある意味良識的な、でもこの手の作品にしては言ってみれば味気ない感じになっている。良く言えば、あざとくない。でも実際読んでみるとなんか物足りないという勝手な読者がここにいた。
正直言うと9巻までは割と惰性で読んでいたのだけど、10巻から結構面白くなっていく。ゲームの中でのイベントと絡めて現実のことが語られるようになっていく。仲間ってなんだろう、人付き合いってなんだろう、共同作業ってなんだろう、リーダーシップってなんだろう、みたいなテーマが語られていて、ちょっとじんときた。
なんかまたMMORPGをやりたくなった。いまファイナルファンタジー11やってるけどほぼ一人なので、また仲間と出会って一緒に遊びたい。でもまあそれ以前にMMORPG自体が下火なのでいいゲームがない。ただ、なぜファイナルファンタジー11が大ヒットして面白かったのかというと、いままでこういうもので遊んだことのなかった人が大勢同時に始めて一度に出会ったのが大きかったんじゃないかと、2ちゃんねるのネットゲーム実況板で言っている人がいて、きっとそのとおりなんだと思った。いまの自分は当時のように楽しめるのだろうか。
川原礫「ソードアート・オンライン」や丸山くがね「オーバーロード」みたいなMMORPGを扱った作品が好きな人にそのまま勧めるのは難しいけれど、ネットゲームのある日常が楽しめそうで10巻以降までまったり読める時間のある人なら読んでみるといいと思う。
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