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    又吉直樹 (文藝春秋 文春文庫)

    まあまあ(10点)
    2017年5月21日
    ひっちぃ

    売れない若手漫才師の徳永は、興行先で出会った先輩芸人・神谷の笑いに対する姿勢に感銘を受け、師と仰ぐことにする。面白いことを追求する神谷を見て、不器用な自分は売れることも出来ないし師匠のようにもなれないと落ち込むが、我が道を行く神谷は世間から取り残されていく。芸人・又吉の芥川賞受賞作。

    いずれ読むだろうなあとは思っていたけれど、それほど興味があるわけでもなかったので放置していたら、文庫化されたものが図書館にあったので読んでみた。良かったけれど息が詰まった。

    この作品の中身は、先輩芸人と後輩芸人との対話が八割以上を占めている。後輩芸人のほうは多分作者のピース又吉(ピースという芸人コンビの又吉)が自分のようなキャラとして描いているんだと思う。人と簡単に打ち解けられない自分だとか、世間に求められているものを提供できない自分についての自省的な独白がジンとくる。そんな色々な思いを、売れっ子とは真逆の先輩芸人・神谷にぶつける。といってもその多くは心の中で。要は、中途半端な人間である自分について悩む話なんだと思う。

    物語的にはとくに大きな動きはなく、まあ一つの結末を迎えはするのだけどそれは時間の区切りみたいなもので、主人公の徳永にとって何かが変わったわけでもなくただ終わる。一方の先輩芸人・神谷には何か変化があったようなのだけど、ほとんど語られずに終わってしまう。心の動きとか変化のダイナミズムに乏しいところが物足りなく思った。

    正直、面白いか面白くないかで言えば、面白くなかった。それに主人公に共感することも出来なかった。でも、先輩後輩のやりとりに多分引き込まれた。多分というのは別にグイグイ読んだわけではなく、目が離せないわけでもなかったけれど、読まないではいられない何かがあった。リアリティなんだろうか。

    こういう先輩後輩関係ってたぶんどこにでもあると思う。先輩芸人・神谷みたいな人はそうそういないだろうけれど、こういうイキる(いきがる)先輩とそれについていく後輩ってなんというかすごく社会の日常だなあと思う。自分もかつて何人かの先輩についていって仲良くしてもらった。でも自分は手下のような後輩を作りたいと思わなかった。つい先日も、このまま一緒に昼食べに行く流れになりそうなところで、じゃあ自分はここで、みたいに言って別れてしまった。…この話を続けると別の文学になりそうなのでやめておく。先輩側のほうだった人もちょっと読んでいて照れながらも懐かしい感じがすると思う。

    ドラマチックじゃない話をじっくり味わえそうな人、そしてかつて先輩や後輩だった人は読んでみるといいと思う。

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