UM pro 50
Westone
まあまあ(10点) 2018年1月13日 ひっちぃ
アメリカで主に補聴器を出している音響機器メーカーWestone(ウェストン)が、プロ向けにモニター用として出しているUMシリーズ最上位のイヤホン。WestoneはSHUREと並んでアメリカの二大イヤホンメーカーとされ、このUMシリーズもモニター用ながら同社の特徴であるどこかウォームな(暖かみのある)音が支持されている。
バーゲンハンターを自認する自分がヨドバシカメラ新宿西口店を定期巡回していたところ、このUM pro 50の展示品がなんと19,800円(とポイント10%還元)という破格の値段で売られていたので即購入した(新品はセールでも五万円台)。ボロボロで外箱はあるもののイヤーピースは最初からついているもの1セットのみで、クリアケースも付属していなかった。去年製品名はそのままに新モデルが出たため、この旧モデルを在庫処分していたのだと思う。一つ下のUM pro 30の新品がamazoneなどで三万ぐらいでセールされたときに話題になったが、このとき自分はWestoneにあまり興味がなかったのでスルーしてしまっていた。
まず確認したのが、自分の買ったモデルが本当にUM pro 50なのかということだった(笑)。UM pro 30とほとんど見分けがつかない。ドライバー数はUM pro 50が5機に対してUM pro 30は3機なのだけど、中域と高域のドライバーがそれぞれ二連装かそうでないかの違いなので、じっくり見てみないと分からない。ネットで写真が上がっているので慎重に見比べてみて、たぶん自分のはUM pro 50のほうなのだろうと判断した。
音は少しクセがあった。どこがモニター用なのかとツッコミを入れたくなる。でも、リスニング用に高域や低域なんかを持ち上げたりしているわけではなく、帯域がフラットという点ではモニター用と言っていいと思う。クセは独特の鳴り方にあった。なんといってよいのか説明が難しいのだけど、小さいギターアンプをボリューム上げて鳴らした時のような心地よいビビリというか、オーバードライブとかサチュレーションと呼ばれる効果がかすかに掛かっているように思った。倍音を自然にアナログ的に増強しているのだと思う。
ボディがとてもコンパクトで耳に収まりやすかった。JH Audioなんかのバカでかいシェルだといくら音が良くても歩いているとずり落ちてくるので、移動中に気軽に使うのに適している。とはいっても、微妙に外れてきていつのまにか低音が減っていることもあった。完全に防ぐにはカスタム(オーダーメイド)を注文するか、カスタムイヤーピース(イヤーピースだけ耳型を取って作る)UM56を作って装着するかしかない。
iPhoneとかスマホでも心地よく鳴ってくれる。パワーのあるデジタルオーディオプレイヤーで再生するとさらに音は良くなるけれど、mojoやX7 mk2 + AM5で聴いても化けるというほどでもなかった。こいつの魅力の多くを占める独特の鳴り方は、どんな再生機器でも変わらないとそんなに思う。
こいつの一番の欠点は、ちょっと音がこもって聴こえることだと思う。モニター用だし原音はこんなものだと思う。プロがミックスなんかで使うモニタースピーカーもこんな感じだし。聴いているうちに耳が慣れてきてそんなに気にならなくなるけれど、前後に他のを聴くと違いは明らかに感じた。
こいつが気に入ったので後日同社のW60を買ってみたところ、高域が伸びていて気持ちよかった。Wシリーズはリスニング向けなのでこういうチューニングになっているのだと思う。原音に近い音を聴きたいというのでなければWシリーズにしたほうがいいと思う。UMシリーズも純銀のケーブルに換えたら高域が伸びるけれど、あえてそうする必要もないと思う。
自分が買ったのは旧モデルになるのだけど、新モデルはいくつかの点でマイナーチェンジされていて、高域が少し増えているらしい。モニター用と銘打っているのなら音が変わるはずはないのだけど、だとしたら旧モデルは間違っていたということなんだろうか。
ケーブルは着脱可能な汎用コネクタMMCXが採用されているのだけど、悪名高いWestone独自の形状をしていて、多くの製品がそのままでは使えない。もう一方の雄であるSHUREと両対応を謳っている製品でないとほぼ装着できないと思っていい。自分はSHUREや中国製のケーブルをいくつか試してみたけれど、うまく使えたのは一つだけだった。一番使いたかった純銀線はコネクタ部分の直径が大きすぎてうまく入らなかった。
一つ下のモデルであるUM pro 30のほうが人気がある。自分はそっちは聴いたことがないので分からない。ロックなんかを元気に鳴らしてくれるらしい。正直自分はUM pro 50を聴いていても特にそんな感じはしなかったけれど、軽快で小気味よい音という意味ではそのとおりだと思う。最近よく読むSandal Audioというポータブルオーディオ系ブログでは、30のほうが「汎用性が高い」と紹介していた。
UM pro 30に相当するWシリーズはW30になるのだけど、Wシリーズはドライバ数が奇数か偶数かによって音のチューニングが異なるため、音の傾向が全然違うらしい。具体的に言うと低域が強いとのことだった。なので似たような傾向を求めるならばW20かW40がいいらしいけれど、価格帯が違ってくるのでグレードによる音の違いが出てくると思う。
ほかに姉妹品としてAMシリーズというのがあり、音の傾向は同じみたいだけど密閉されておらず外の音が聴けるようになっている。UMシリーズはカナル型(耳栓型)のイヤホンの構造的な特性として耳栓をしているようなものなので外の音はあまり聞こえなくなるのだけど、AMシリーズはシェルに穴が開いていて外の音を通すようになっているらしい。人の声が聞こえるのはメリットだけど、騒音が大きい場所だと音楽を楽しめない。
WestoneはこのUM pro 50とW60とW80をsignatureシリーズとして系列をまたいで差別化している。自分はこれら以外を聴いたことがないので違いについては何も書けないけれど、Westoneが目指している音の方向性はなんとなく分かった気がした。UM pro 10の旧モデルが一万円ちょっとで売られていたので、純正イヤーピースとケース目当てで買ってしまおうかとも思ったけれど結局買わなかった。
はっきり言ってしまうと、Westoneはピュアオーディオではないと思う。まあそもそもポータブルオーディオ自体がピュアオーディオではないという指摘は置いておいて、Westoneは良くも悪くも原音に忠実ではないと思う。Boseのように帯域バランスや音の出し方まで大きく変えているわけではないけれど、人間の耳に心地よい音を目指すために原音と少し離れてしまっていると思う。自分が一番に愛用しているJH Audioも「濃い音」と言われていてやはり原音に近いわけではないのだろうけれど、それでもWestoneと比べるとプレーンに鳴っている。音の悪い音源を聴くときにはWestoneのほうが気持ちいいけれど、音の良い音源を聴くときにはプレーンな音を楽しみたい。でもそういった音源はそんなにないし、騒音の大きい場所だと享受できないので、移動中だったらWestoneがいいという結論に達した。
大手メーカー製の安心できる製品が欲しくて、SHUREの音が味気なく感じる人にはこのWestoneを選ぶといいかもしれない。旧モデルはもう市場にほとんど残っていないので、音のこもりがある程度解消されているけれど少し高い新モデルを買うといい。
(最終更新日: 2018年1月13日 by ひっちぃ)
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