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    村山慶 (徳間書店 RYU COMICS)

    傑作(30点)
    2018年2月18日
    ひっちぃ

    女子高生の君原姫乃は正統派な美少女だったが、下半身が馬のような形態をしたケンタウロス(セントール)だった。ほかに角や翼を持った様々な亜人たちが人間に代わって進化を遂げた空想世界で、彼らにとっての日常と現代社会を描いたSF日常系マンガ。

    2017年にテレビアニメをやっていたのを見て、最初はただの奇をてらった萌え作品と思ったのだけど、亜人の子供たちがかわいくてすっかり魅了されてしまった。原作を読んだらさらに魅かれた。ほかに、女子高生や子供たちとはまったく関係のない、ちょっと風刺の効いたSFのエピソードが挟まれる。

    正ヒロインの君原姫乃は美少女として周りから扱われているのだけど、下半身が馬なのでとても重い(百キロ以上?だったっけ)。その重さを同級生たちはからかうのだけど、この世界ではごく自然なことであり、ギャグマンガ的なオチとしては描かれていない。あきらかに異形なのだけど、かわいく扱われるし、実際かわいく描かれている。着替えのシーンなんか、とてもリアルというか説得力のある描かれ方をしていて、なおかつ馬のような肢体がなまめかしかったりかわいかったりする。

    竜人の獄楽希(のぞみ)はボーイッシュな女の子で、実家が空手道場を営んでいて、自身も子供たち相手に教えている。粗暴な性格をしており、自分はかわいくはなれないと思っているのだけど、そんなことないよと周りから言われて照れたりする。名楽羌子は角人で細い目をしたインドア系の女の子で、成績優秀だけど運動音痴で醒めたツッコミ役で、美少女の姫乃や隠れ美少女の希の傍らにいてよく振り回されている。竜人と角人は普通の人間に角が生えただけに見える。

    委員長こと御魂(みたま)真奈美は神社の家に生まれた巫女の女の子で、天使のような外見をした翼人。可憐な美少女のように見えるが、父子家庭で売れない画家をやっている父親と幼い妹たち四人の世話をしているしっかりもの。三つ子の妹はみんなやんちゃでかわいく、末っ子のすえちゃんは病弱で体を動かし過ぎると体調を悪くするのでみんなで面倒をみている。

    人馬の姫乃には従妹の紫乃ちゃんがいて慕われている。紫乃ちゃんは幼稚園の年長さんで、年下のまきちゃんになつかれる。まだ小さい紫乃ちゃんが一生懸命おねえさんをやろうとしたり悩んだりするのがかわいい。

    いわゆる猫ミミとかケモナーとかとは異なっていて、あくまで人間だけどちょっと違う。動物っぽい魅力を追求しているわけではなさそうで、人馬の世界では一体どういう感覚が普通なんだろう、といった感じで読者の固定観念を揺さぶってくる。

    これがたとえば純粋なSFであったりギャグだったりすると、明らかにおかしな外見をした人物が私たちの想像のつかない感覚でかわいいとかうれしいとか言いあって、それ自体をギャグにして笑ったり「少し不思議」なSFとして楽しんだりする。しかしこの作品の場合、ちょっとおかしな世界なのだけど現実の私たちにも感覚が分かってしまうように描いている。ジェイムズ・キャメロンの映画「アバター」で描かれる異星人同士の愛情描写と通じるところがあるように思った。

    ほかに、普通の人間ではなく亜人が進化を遂げた空想世界の歴史を描いてみせている。正直自分はもうこの手のものにあまり興味がないのでほとんど読み飛ばしてしまったのだけど、昔々読んだ筒井康隆の「虚構船団」を思い出した。

    自分にとってこの作品はまず萌え部分がとてもよくて、SF部分はまあつまらなくはないけれど必要ないかなって感じなので、人に勧めるのが難しい。萌え部分だけ編集してくれないかなと思ってしまう。でもこういうところからSFファンが増えてくれるといいのかなとも思う。あ、むしろSFを嫌いになってしまう人を増やしてしまうかもしれないなあ。とにかく、特に小さい子供のことが下心なく好きだという人は絶対に読んだ方がいい作品だと思う。

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