東京タラレバ娘
東村アキコ (講談社 KC Kiss)
最高(50点) 2018年3月25日 ひっちぃ
30を過ぎて独身の女たちが結婚しようと恋をするもうまくいかず、若い頃のことを思い出して「あのときこうしていタラ」「ああしていレバ」と後悔しつつ、自分らしくありたいと思う話。少女(?)マンガ。
作者はオタクの恋を描いた「海月姫」でも知られる東村アキコ。NHKの非モテ特集番組で取り上げられたかチラりと見えたかしたのをきっかけに読んでみた。男の自分からしたら、すごいざまあみろ的な、他人の不幸がおいしい作品だった。
一人目は売れない脚本家の女。若い頃に番組制作会社の垢抜けないADから結婚を前提にした交際を申し込まれたが、ダサいし金ないしで断っている。十年後、彼はディレクターに昇進しており、たたずまいも成熟していた。いまもう一度交際を申し込まれたらOKするのにと思っていたが、彼女のことはもはや彼の眼中にはないのだった。
二人目はネイルサロンの女。やはり若い頃に売れないバンドマンと交際していたが、将来の見えない彼に愛想が尽きて別れてしまう。ところが気づいたら彼はメジャーデビューを果たし、モデルと交際している。偶然再会した彼に再び求められるが、もはや都合のいい女だった。
三人目は小料理屋の娘。ある日すごいタイプなサラリーマンと出会うが、朴訥な人柄に見えて実は妻子がいるのに平気で不倫を持ちかける男だった。それでも好きなので先がないのを承知で不倫をするのだった。
この三人は高校のときからの親友で、よく三人で集まって女子会をしている。その女子会の開催の合図が「第〇出動!」といって、第1から第4まで用件のレベルを表していて、特に第4は男関係で文句を言いあう飲み会になる。
あるときそこへ若い金髪イケメンのモデルが絡んできて、三人をバッサリ切り捨てる。いい年した女がありえない仮定話で盛り上がってバカみたいだと。
作者が自分の周りにいる独身の友人たちの愚痴をもとにして書いているせいか、登場人物がすごいリアルでイキイキとしていてすごい。
あらすじを書いていると主人公たち三人のアラサーガール(?)たちがすごい悲惨でかわいそうな感じがするのだけど、みんなめげないしコメディタッチでとにかく面白い。畳みかけるようなストーリー展開と主人公たちの自虐ギャグ(?)が冴えわたっていて素晴らしい。結構シリアスな問題を扱っているのにこれだけ面白いってのはなんかもう奇跡のレベルかもしれない。脚本的な面白さは宮藤官九郎に勝るとも劣らないと思う。自分はすぐにこのヒロイン三人組を好きになった。
SNSでのやりとりのギャグが結構よかった。「マジかwww」とか草生やしたりしてる。余計な演出がなく淡々とスマホの画面で表現されているだけで笑ってしまう。作者はいいおばさん(しかも子持ち)なのにデジタルネイティブな感じ。
ヒロイン(?)が悲惨な目にあうだけでは話にならないので、謎のイケメンモデルがイヤな男ぶりを見せながら不思議と気のある感じで時折絡んできて、なぜ?どうして?と反問する。なかなか行き遅れ女子(?)にとって都合のいい展開にはならないのだけど、夢をちらつかせつつ現実を見せるという絶妙なバランスのストーリーが展開される。
そして最後にこれまでの伏線というか謎を回収してドラマチックに盛り上がるだけでなく、読者をなぐさめる大人の物語としてきれいに終わる。自分は主人公たちと同じような立場の女性ではないので実際のところはどうか分からないけれど、誰が読んでも面白い作品だと思う。
作者は1巻のあとがきからしつこく書いているように、決して結婚を勧めているわけではないし、ヘンに高望みなどするなと行き遅れ女たちに説教したいわけでもないようだ(ちょっとイラっとはしているみたいだけど)。といっても作者自身は最初の結婚で失敗して五年間シングルマザーしたあと再婚しているみたいなので、立場的には「自分に見合う男がいない」と嘆く自信過剰な女性に対してはなにかしら言いたいことがあるのだと思う。
少しだけ紹介すると、イケメンで自分のことを好いてくれるいい男と出会うのだけど、その男はかなりの映画マニアで自分の趣味や好みを押し付けてくる。無理!ってなるわけだけど、これってそんなに無理なの?誰にだってダメなところの一つや二つあるでしょ?そんなんだから相手を見つけられないんだよ?みたいな。でも男に合わせて笑い続けることは出来ない。じゃあどうすればいいの?となる。どこで妥協すべきなのかという真剣なテーマが語られる。
この作品はテレビドラマにもなったけれど、累計発行部数はドラマ化前の時点で180万部、ドラマのホームページには330万部と、全9巻のマンガ作品としては普通のヒット作といったぐらいなんだろうか。爆発的な大ヒットとは言えないみたいな感じ。でも、ここまで一部の女性の痛いところを突く作品が売れるってのはすごいことだと思う。日本のメディアは大抵女性に媚びているものなので、「あせっているのは男だけで女は余裕」みたいな描かれ方ばかりだった。芸人の世界でも不細工な女芸人がメジャーになってきているし、流れが変わってきている感じがする(ずっと言い続けているけど)。これは多くの女性にとっていいことだと思う。
全女性必読の名作だと思う。男でも色々と考えさせられるし何より面白いのでぜひ読んで欲しい。
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