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    葵せきな (KADOKAWA 富士見ファンタジア文庫)

    まあまあ(10点)
    2020年5月25日
    ひっちぃ

    高校生の雨野景太はゲームが大好きな以外はこれといって特徴のないボッチ(孤独)な少年だったが、ガチなゲーム好きの金髪美少女天道花憐に目をつけられてゲーム部に勧誘される。彼にとっては願ってもない話だったが…。青春群像ラブコメ小説。

    2017年にアニメ化されたのを見て怒涛の脚本演出に圧倒され、この作品が当期の覇権かなと会社のアニメ好きの同僚に話した覚えがあり(なお同意は得られなかった模様)、いずれ原作を読んでみようと思っていたらいつのまにか数年が過ぎていた。で最近コロナの影響で時間が出来たということもあってようやく読んでみた。面白かったけれどいい加減展開がひどいなと思って8巻で読むのをやめた。

    以前同じ作者の「生徒会の一存」という作品を読んだことがあるのだけど、職人芸のようなきっちりした文章にうなったものの、あざとすぎる話やキャラに全然引き込まれなかったので1巻で読むのをやめた。今回もまあ基本的なところは変わっていないように思ったのだけど、前より話もキャラも面白く感じたのである程度読むことができた。

    今回はまず主人公のゲームに対する姿勢に共感できた。作者自身ゲームが大好きみたいでそれを余すところなく(かどうかはしらないけれど)描いているので、自分とは多少考え方が違うけれどそれはそれで分かる話で楽しかった。でもこいつはボッチ(孤独)のくせに数少ない友達に言われたからにせよ違うクラスの全然知らない地味なゲーム好きの女の子である星ノ守千秋に話しかけ、なんだかんだで仲良くなってしまう。そしてゲームのことで熱くなると彼女のことをチアキと呼び捨てにしてクセっ毛をからかうまでにいたる。しかも彼女は主人公がずっとやっているスマホゲームのオンラインフレンドであり、かつ主人公が毎度新作を期待している超マイナーなゲーム作家その人でもあるのだった。相変わらずあざとすぎる。でもまずは気にしないで読むことにした。

    星ノ守千秋の同じ言葉を二回繰り返すクセ、たとえば「あのあの」「でもでも」がアニメだとすごく特徴的でかわいかったのを思い出したので、この原作読んでいるときも脳内で再生された。雨野景太と意気投合し、気安くケータと呼ぶようになるところが違和感アリアリだったけれど、ボッチは人との距離感がつかめないということなんだろうなと思って飲み込んだ。こいつは雨野景太とは似た物同士なのだけど、唯一ゲームに萌えを認めないという一点で決別しており、この争点になると不俱戴天の仇とばかりに激しい舌戦を繰り広げるのがウケた。

    話の方はラブコメなので惚れた腫れただけでなく誤解や錯綜がもとで三角関係っぽくなったりするので展開が楽しめた。でもさすがに7巻は意味不明でいい加減ひどいなと思ったので、一応8巻まで読んでからもういいかなと思って読むのをやめた。しょーもない誤解すんなみたいなのは長編ラブコメの宿命だからある程度はしょうがないと思うけれど、にしてもこの作者はひどいと思う。この人は脚本だけ書いていればいいタイプの人なんじゃないかと思った。

    以前アニメを見ていたときに途中引いてしまったのは、金髪美少女の天道花憐がポンコツ化していくのが露骨すぎたことだった。学園のアイドルが地味な男に惚れて何をやってもうまくいかないという状況をメタっぽくいじっているのがあざとくて素直に楽しめなかった。今回原作を読んでみたら、なにより天道花憐は筋金入りのゲーム好きなので、自分とは方向性が異なるけれどゲームに対するしっかりした考えを持つ雨野景太のことを好きになる可能性は十分あるなと思った。そこからのヘタれ具合も、いままで惚れられるのが当たり前で自分から惚れることなどなかった彼女の色々初めてなところが出たのだと思えば分からなくもないなと思った。ただ、作者の職人芸的な文章が露骨すぎてやっぱりあざとく感じてしまうのだった。

    あざといあざというるさく書いてしまったけれど、オタクというのはそういうのを気にしないで作品をたしなむことができるというのが非常に大きいってことなんだろうか。あんな目が大きくて胸のでかい女の子なんて現実にはいない、と普通の人(?)なら敬遠する中で、それが萌えであり魅力なんだと言って愛でるのがオタクなのだということを自分は分かっているつもりでいたし、実際自分はアニメキャラのビジュアルが大好きなのだけど、「アニメ絵」はよくても「アニメ人格」や「アニメ話」だけはダメというのはサブカルをたしなむ人間としておかしいのかもしれない。まあでもこの作品もそれほど売れているわけではなさそうなのでこれがオタクの王道ってわけでもないと思う。

    なんちゃってギャルの亜玖璃がかわいい。高校デビューした元地味っ子なのだけど、主要登場人物の中で唯一ゲームがそれほど好きではないので、ゲームについて身もふたもないことを言ったり、もともと頭が良い上にギャル化して奔放になったので色々と鋭いツッコミを入れたりするのが良かった。でも性格は健気で、雨野景太の友人である上原祐に自ら告白して付き合ってもらっていると思っており、いつ彼の心が自分から離れるんじゃないかと不安に思っている。

    上原祐も実は高校デビュー組なのだけど、すっかり板についてきてクラスでは普通にイケメンとして振る舞っている。陽キャとなってからも陰キャに対して面倒見はよく、雨野景太のことを放っておけずに色々と世話を焼く。しかしなんと自分の彼女であるはずの亜玖璃が雨野景太と二人で仲良くファミレスとかで会話しているのを目撃してしまう。この二人は二人でまったく恋愛感情はなく、自分たちの境遇が似ているからとたまたま意気投合しているだけだと思っているのだけど、周りから見たらどこからどうみても友達以上に仲良しに見えるのだった。

    この五人までが主要登場人物だろうか。星ノ守千秋の妹である心春(このは)まで入れて六人ってことにしてもいい気がする。こいつは天然の姉と違って自らをかわいく演出するすべを心得ており、小柄な体を活かしてツインテールで愛想を振りまくっているのだけど、実はエロゲー大好きな変態痴女なのだった。姉のことがなんだかんだで好きなので姉の恋を応援しようと動き回るが色々と裏目に出る。

    雨野景太にも弟の光正がいて、やはりこいつも兄のことが大好きなのだけど、こいつは登場してすぐに毒舌を吐きまくり天道可憐や上原祐のことをののしる狂犬ぶりを見せる。こいつが出てきたときにもうこの作品を読むのをやめようかなと思い始めた。

    イラストを仙人掌という人が担当していて、特に表紙を飾る女の子の絵は魅力的なのだけど、この人の描く人物の顔の形やパーツが全員似たり寄ったりなので、表紙ほど力を入れていないと思われる挿絵が描き分けできていないように感じた。

    というわけで読む人を選ぶと思うのだけど、多少人工調味料のクセが強くてもガッツリと設定や展開を作り込んだ濃い味付けの作品を楽しめる自信があるなら読んでみるといいと思う。

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