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  • 私、能力は平均値でって言ったよね! 第13巻まで

    FUNA (アース・スター・エンターテイメント EARTH STAR NOVEL)

    傑作(30点)
    2020年7月5日
    ひっちぃ

    生まれつき勉強にもスポーツにも芸術にも秀でていた栗原海里だったが、周囲から特別扱いされ仲の良い友人が出来ないまま高校を卒業し、大型車でひかれそうになった女の子を助けた代わりに死んでしまう。死後なぜか謎の存在に感謝され、別の未開な世界へ生まれ変わることになる。能力は平均値がいいと言ったはずだったが…。ファンタジー小説。

    2019年の年末に掛けてアニメ化されたのを見て、割と小粒な異世界転生物だと思って気楽に楽しんでいたのだけど見ているうちにキャラクターに愛着を持っていき、いつのまにかハマっていた。いったんコミカライズ版をはさんでこの原作小説に手を出してみた。面白かった。

    題からも想像できるとおり主人公がめちゃめちゃ強いという点では普通の俺TUEEEな異世界転生物なのだけど、他の作品と違って転生前はすごい能力を持っていた孤独な少女が、転生後はつつましくもにぎやかに過ごしたいという想いを抱えているのに、転生後もものすごい能力を与えられたことで周りから浮いてしまうのだった。しかしそんな中でもコミュ障で世慣れない彼女と仲良くしてくれる友達ができ、どうやら今度は楽しく生きていけそうだと思うのだった。

    アスカム子爵家の長女アデルとして転生した彼女は、10歳になって初めて自分が転生したことを思い出して行動を開始する。生母と祖父を一度に謎の事故で失い、父親と後妻に疎まれた彼女は、家を追い出されるかのように下級貴族などの通う全寮制の学園へ身一つで放り込まれる。その学園でのちに「ワンダースリー」と呼ばれることになる三人の少女たちと出会い仲良くなる。

    しかしその生活は長く続かず、不用意に王女の馬車の前に出てしまった子供を助けるために女神のフリをして一芝居を打つが、特に変装もしていなかったために女神を降臨させし少女として国から追い求められるようになってしまう。せっかく仲良くなったかけがえのない友人たちに書置きを残し、断腸の思いで新たな地へと行くのだった。

    この未開の世界で何の身寄りもない子供が生計を立てていくのは難しいが、たどり着いた国には運よくハンター養成学校があった。この世界のハンターはいわゆる冒険者みたいなもので、動物や魔物を狩ったり薬草や野草や木の実を採取したり商人の護衛なんかを請け負ったりする何でも屋だった。ここでひと騒動あったのち、マイルと名を変えた彼女は寮の同室の女の子たちとパーティ「赤の誓い」を結成するのだった。

    魔術師レーナは幼い外見に関わらず年長でハンターとしての活動経験もある実質的なリーダーで、ぶっきらぼうな口を利くオレオレタイプでパーティを引っ張っていく。いつも冷静な判断を下し、甘っちょろいことを言うメンバーを抑えていたが、そんな彼女が盗賊団に対しては暴走する。それには彼女の悲しい過去があるからだった。

    剣士メーヴィスは男装の麗人だが実は伯爵家のお嬢様で、三人もいる兄と父親に溺愛されて育ったが、家族の影響を受けて将来は騎士になりたいと思うようになるも当然家族に反対され家から逃げるように飛び出してハンターから騎士を目指している。長身で一見大人っぽくて物腰も柔らかいため、パーティの対外的なリーダーとして依頼主と接する役目を持つが、甘やかされて育ったため意外と子供っぽいところがある。

    治療術師ポーリンは胸が大きくておっとりした少女だが、商人の娘で金勘定にはうるさく腹黒い性格をしている。商会主だった父親を番頭の陰謀により殺され、母親は子供を守るために仕方なく番頭に従う中で、自分は家を飛び出して一人で身を立てていく決意をしたのだった。毎晩パーティの金貨を数えている。

    主人公アデル改めマイルの強さの理由は、謎の存在の力により平均値の能力しか持たないはずが、どうやらこの世界最強の古竜も含めた種族ごとの平均になってしまったために、人間の6800倍もの能力を持っていること。あと、この世界で魔法を実現しているのは実はナノマシンのお陰であり、彼女はナノマシンと直接コミュニケーションを取れるため、魔法的なことはほとんどなんでも出来てしまう。

    そんな彼女だったが、本当の力を発揮してしまうと怖がられて誰も近付いてこなくなりそうなのでひた隠しにしているものの、この世界のことがよく分かっていない彼女がそれを完全に隠しきれるはずもなく、次第に悪目立ちしていく。周りの人々はなぜ彼女が力を隠そうとしているのか分からず戸惑うが、一部の人間はどうやら彼女が寂しがりやだということに気づき打算もありつつ仲良くなる。

    なんか筋だけ説明するとシリアスっぽいけれど、実際はコメディの要素の方が強い。主人公マイルはなんだかんだで楽天的で緊張感がないし、仲間たちもハンター気質で普段は過去のことなんか全然気にしていない。若い女の子四人組ということで最初はあなどられるけれど、実力を発揮して周りをあぜんとさせるのが定番の流れで、一見困難な依頼も強引に解決してしまう。

    主人公マイルは転生前の知識をもとに日本昔話ならぬ「日本フカシ話」を毎晩仲間たちに語ってきかせ、現代の優れたエンターテイメントの影響力の強さゆえに仲間たちが徐々に感化されていくのが面白い。自分たちのパーティ「赤き誓い」の名乗りのフリ+カラフルな煙幕でかっこつけようと悪ノリしたり、名画の有名なシーンやセリフをマネしてみたりする。マイルは仲間内だけでなくひそかに小説も書いており、海里(みさと)+アデル+マイルのアナグラムでミアマ・サトデイルの名で出した出版物は密かに流行っている。

    アニメは大体原作の第4巻までやったはずなのだけど、いまのところこの作品の面白さのピークもここまでだと思う。メンバーの過去の話を一通り済ませ、この世界最強の存在である古竜も出てきてアニメは終わっている。そのあとの話は大体小粒に思えた。マイルというかアデルの故郷が帝国に侵略されるので救援に向かうという一見大きな話もあるけれど、普通にいつもの調子で解決してしまう。古竜とのやりとりはだんだんエスカレートしてくるけれどワンパターンになっていく。既刊13冊でやっと百万部に到達したようなので、一冊十万部というベストセラーの条件には届かず、ヒットしたとは言い難い。自分はこの作品大好きなのでテコ入れにアニメ二期もやってほしいのだけど、営業的にも内容的にも難しそう。

    一応マイルにはこの世界の神と呼んでいい存在からお願いをされており、この世界の文明がある程度発展しては滅びてしまう原因を探っていて、旅の中で遺跡を見つけて探ったりしているうちに少しずつ分かってくるのだけど、既刊ではまだまだ謎は解けていない。多分今後は次元の狭間からやってくる存在と戦う流れになりそう。

    マイルもといアデルの初めての友達である「ワンダースリー」の面々の扱いが中途半端でモヤッとする。本筋ではやはりハンターパーティ「赤き誓い」がメインなんだけど、作者は「ワンダースリー」の話も定期的に放り込んでくる。作品の主要メンバーとは言い難いけれど脇役でもないというバランスは、「ワンダースリー」にも思い入れたいという自分のような読者の気持ちからするとハシゴを外された感じがしてもどかしい。合流してくれたらスッキリするのだけど作中で描かれるように色々と無理があってできない。

    言葉遊び成分が意外と多く、クスリとはくるのだけど結構しょうもない。文芸っていうのは突き詰めると言葉遊びなんだと言う人がいるけれど、自分はそういうのはイラッとくる。深く考えずに読み飛ばせばいいのでそこまで気にすることじゃないんだけど。オーガ退治の前に「泣いた赤オーガ」の話をするマイルの空気読めないところはウケた。

    マイルは結構感情豊かであり、わりと「激おこ(激怒)」状態になるのがかわいい。たぬき顔で普段は気の抜けた表情をしている。転生前の海里にはかわいい妹がいたせいか、幼い子供とくに獣人の幼女に目がない。幼い男の子にも興奮し、誤解を招きかねない表現で揶揄されるのがウケる。なんだかんだで最終的にいい相手を見つけて結婚したいと思っているらしい。でもいまのところ恋愛要素はまったくない。脇役キャラ(?)のケルビン君ががんばるエピソードもあってマイルも絡むのだけどまったく意識せず。

    アニメかコミカライズ版ではレーナを最初に拾ったパーティ「赤き稲妻」には女がいたけれど、小説だと全員男になっていた。アニメでの回想シーンの受け継がれる想い的な演出が結構グッときたのだけど、さすがに小説だとさらっと書かれていた。レーナは目上の人間相手にもため口をきく基本小生意気な女なのだけど、ひとたび頼りになる相手と判断するとデレるのがかわいい。

    ポーリン置き去り事件が笑った。彼女は商人の娘だけど実家にはすでに跡継ぎの弟がいるので自分は戻るつもりはないらしい。おそらくいずれ自分で商会を立ち上げるんだと思う。パーティ「赤き誓い」はハンターAランクになるのが目的なので、特にメーヴィスは騎士に取り立てられて同僚か王子様と結婚したいらしい。いずれ解散するだろうという行く末が見えているのがちょっとじんわりくる。まあそれまでにうんと冒険できるだろうから本筋的には意味がなさそうだけど、解散後の話も書く予定であればそれも楽しみだ。全員が幸せになるところまで描いて欲しい。レーナはハンターギルドの幹部とかになるんだろうか。

    作者のFUNAは他にも「ポーション頼みで生き延びます!」「老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます」も同時に連載しており、どっちもコミカライズ版だけ読んでみたら面白かった。いずれ原作小説も読むと思う。「老後に備えて~」のほうで領地を治める展開になるので、こっちのほうではきっとそういう展開にはならないんだろうなあ。

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