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    原作:山川直輝 漫画:奈央晃徳 (講談社 少年マガジンコミックス)

    まあまあ(10点)
    2020年11月23日
    ひっちぃ

    ボッチ(孤独)な中学生男子の四谷友助は自分のこと以外どうでもいいと思っている人間だったが、あるとき謎の未来人(?)によってクラスメイトの女子二人とともに異世界に飛ばされ、一緒に協力してクエスト(冒険)をこなさなければならなくなる。少年マンガ。

    2020年秋にアニメ化されたのを見て面白かったのでこの原作マンガにも手を出してみた。序盤はよくある異世界ものらしくテンポよくて面白かった一方で、題がどういう意味なのかよく分からなかったのだけど、ジフォン編が終盤に入るあたりからなんとなく分かってきた。すごくいいテーマだと思った。

    四谷くんと一緒に異世界に飛ばされた女の子二人は、読モ(ファッション雑誌のセミプロモデル)をやっている新堂さんと、体が弱くておとなしい箱崎さん。この二人はボッチの四谷くんを初めての男子として歓迎する。どうやらこの異世界転送はステージ制になっており、最初のステージは新堂さんが一人で苦労してクリアし、二番目のステージで箱崎さんが加わったもののギリギリでクリアしたので、この三番目のステージで四谷くんは非常に期待されているのだった。

    ところが四谷くんはゲーム脳なので、この世界のルールを把握するや、みんなで助け合うのではなく割り切って行動し、女の子たちを突き放してしまう。そんな四谷くんにドン引きする女の子たちだったが、その一方で彼の頭の良さと機転となんだかんだでやりとげてしまう行動力に信頼を寄せるようになる。

    職業がルーレットで決まるのだけど、ダーツの刺さったすごく細い場所が「農民」だったのがウケた。四谷くんはクワとかカマとかでどうにかして戦わなければならなくなる。一方で読モの新堂さんは魔法使いだけどレベルが低いので大したことができず、体が弱い箱崎さんは戦士なのだけど運動神経がにぶいのでろくに剣を扱えない。ちなみに職業はレベルが10になるごとに転職して変えることが出来る。よく分からない職業を引き当て続けた四谷くんが持ち前のゲーム脳でなんとか工夫していくのも楽しい。

    ステージごとに片言のゲームマスターから目的が告げられ、期限内にそれを果たせばクリアとなって元の世界へ戻される。しかしもし時間切れになってしまったら全員死ぬので、みんな必死でやる。クリア後はしばらく普通の生活を送ることができるが、一定期間後にまた次のステージへ飛ばされる。その前にステージの攻略を有利に進めるためのクエストがなんと現実世界で与えられ、次のステージの新たなメンバーとなる人と事前に知り合って準備しておくことができるようになっている。しかしボッチ(孤独)の四谷くんは四人目のメンバーと会ったときに色々と勘違いして心証が最悪になってしまう。

    異世界の住人たちは基本的にNPCというかモブ(一般人)なのだけど、キーとなる人物とは仲良くなって友情を交わしたり、敵対して命のやりとりをしたりする。肉を切るのが大好きな女騎士カハベルさんがかわいかった。各ステージ間は同じ世界だけど数年程度時間が流れてしまうので、会いに行ったらその後の様子が分かってちょっとじんときた。

    この作品は基本的に四谷くんの物語だと思うのだけど、彼がボッチ(孤独)から陽キャ(コミュニケーション能力の高い人)になる話ではない。彼はあくまで彼なりに新堂さんや箱崎さんと向き合い、そんな彼のありようを彼女たちが理解し頼りにしていく流れになる。これ、なにげにすごくいいと思う。だって、別に彼はボッチだからといって悪いわけじゃないし、ちゃんとみんなのために行動している。彼のことを最初キモいだとか理解できないだとか言っているほうがおかしいと思う。でも彼が自分以外には関心がなかったことも確かであり、周りのことを理解しようとしていなかったことに気づいていく。

    題の「100万の命の上に俺は立っている」というのは、四谷くんを始めとした私たち現代人が人類の不幸な歴史の積み重ねの上に生きているのだということに彼が気づいていくことを表しているのだと思う。ジフォン編は最初、島国に住み着いたオークたちを追い出す話から始まるのだけど、災害列島日本の歴史の追体験になる。次の麻薬戦争編はアメリカとメキシコの麻薬戦争をモデルにしている。幕間に作者が現実の歴史について解説しているので狙ってやっていることは明らかだ。メキシコのめちゃくちゃぶりはまとめサイトで時々読んでいたのだけど、表層しか分かっていなかったんだと知った。

    そんなわけなので面白くないはずがないと言いたいところなのだけど、やっぱりちょっと微妙なところも多くて読んでいてあんまり話に引き込まれなくてそこまで楽しめていない自分がいた。

    まず四谷くんを始めとした主要登場人物が中学生というのは無理あると思う。「荷物の定義とは?」みたいなことを中坊が言うだろうか?あと理屈っぽくて極端なところは共感できるのだけど(?)、それ以外の点でいまいち四谷くんに感情移入できなかった。なんだか得体の知れないところが多い。

    四谷くん以外の主要登場人物についてもあまり思い入れ出来なかった。一番分かりやすい性格をしているのは多分箱崎さんで、現実世界だと体が弱くて毎月高価な薬を飲んでいて親に迷惑を掛けているという後ろめたい気持ちを持っていることから、異世界では体を鍛えて活躍したいと思っている。女騎士カハベルさんに特訓してもらってモンスターをなんとか倒せるようになるのだけど、謝ってばかりだし誰かを助けたいという想いが強調されるだけだった。以後、一応活躍していくのだけど、あまり彼女の内面にスポットライトが当たらず空気となってしまう。

    読モの新堂さんは正ヒロインかと思いきやまったくそういうことはなく、助けてほしいと四谷くんに懇願するのだけどその後たいした描写がないのだった。家族がヤンキー(不良)だったせいで教師やクラスメイトから不当な扱いを受けていたのを、自分の努力で味方を増やして周りの環境を変えていった自信と誇りが、異世界へ飛ばされたことで何の役にも立たなくなり再び絶望の底に沈むという描写があるのだけど、四谷くんは結局どうしたらいいか分からず放置してしまう。一方で四谷くんは女騎士カハベルさんや巫女さんのことは救ってしまい好意を寄せられるのだった。

    四人目の時舘さんは互いに空気を読み合っていじめの標的にならないよう振る舞う現代の子供の代表みたいな感じの役目を背負って登場するのだけど、芯を持って行動しようみたいな展開にはならず、まっすぐな四谷くんにはまったく惹かれないのだった。答えがあるわけじゃないんだろうけど、もっともがいている姿を見たかった。ってよく考えたら異世界へ飛んじゃったら現代的な悩みなんて描けないのか。でもなにか生きるヒントみたいなものを掴めないんだろうか。

    五人目の鳥井は陽気な男で、不幸な生い立ちは語られるものの彼自身の物語にはそんなに踏み込んでいかず、四谷くんが自分とは正反対の人間として自分の欠点を自覚させられる材料に使われているだけのように思える。

    原作者は話の筋のほうにばかり注力するようになり、かといってアンチ物語というわけではなく、キャラの描写が最低限になっていく。読んでいて展開は気になるけれど段々それほど楽しめなくなってしまった。やっぱりいくら筋書きが良くてもキャラクターがあまり描かれていないと楽しめないんだなあと思った。だんだん誰が何をやったとか大して意味がなくなっていく。序盤の展開が良かったという人は、以後そんな展開にはならないのでアニメだけで十分だと思う。

    アニメにもマンガにも、いらすとやの絵を使ったバージョンがあってウケた。アニメは最初見てマジかと思った。マンガのほうは正直分かりにくくていまいちだった。いらすとやはフリー(条件付き)なイラストの素材を配布しているおそらく最大手のサイトで、自分も仕事でちょっと使うことがある。海外でも日本人研究者がよく資料に使っているらしく、向こうの研究者から不思議がられているらしい。

    筋書きの面白い話をマンガで読みたいという人になら勧められるけれど、そこまで敢えて勧めるほどの作品ではないので、興味がわいた人だけ読めばいいと思う。

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