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      ▼ ソードアート・オンライン 9~18巻 アリシゼーション編

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  • ソードアート・オンライン 9~18巻 アリシゼーション編

    川原礫 (アスキー・メディアワークス 電撃文庫)

    傑作(30点)
    2021年1月13日
    ひっちぃ

    VRゲームの仮想現実の中に一万人ものプレイヤーの意識を閉じ込めたソードアート・オンラインの事件を生き残った高校生の桐ケ谷和人は、メンタルケア等のために特別に設立された学校に通いながらハイテク企業ラースで治験バイトをしつつ、VR技術に関わりたいという将来の夢をみんなに語っていた。しかしゲーム内殺人ギルドの生き残りに襲われ、脳が深刻な損傷を負ってしまう。大人気ライトノベルシリーズの本編完結巻。

    アニメ化されたのを先に見たのだけど、人界編が終わったところで飽きてしまい途中で見るのをやめてしまった。今回ようやく原作を読み、結末までたどり着くことができた。最高に素晴らしいSF作品だと思う一方で、冗長で特に最後の方は淡々と読み進めた。その点についてはあとで書く。

    物語は突然、キリトという名の幼い少年がファンタジー風の村で幼馴染の男の子と女の子の三人と仲良く遊んでいる描写から入る。あれ?こいつもう高校生になったはずだし、日本で生まれ育ってるはずなのにどうして?という疑問が解けないまま、話は急に現実での仲間同士の集まりに移る。そこでキリトこと桐ケ谷和人はみんなに自分の将来の夢について語る中で、ハイテク企業ラースが「フラクトライト」という量子脳のような技術を研究しており、それを利用することでこれまでのポリゴン(多角形)で描かれたものとは段違いのリアリティを持つ仮想世界が実現できるのだと言う。そのための研究に彼はあくまで治験バイトとしてかかわっており、実験中の記憶がないのだけどなんらかの実験データの採取が行われているのだという。

    その集まりの帰り道、恋人の明日奈と一緒にいるところをかつてゲーム内で因縁のあった男に襲わる。彼は彼女を守るため戦うが、危険な薬物を注入され生死の境をさまよう。彼が目覚めたのは、現実のようで現実でない、どこか懐かしさも感じる村のはずれだった。

    これ以上はネタバレにならずに説明するのは無理というか、もうここまで書いた時点で勘のいい人には分かってしまうと思うけど、露骨に説明しなければ興は削がないだろうからこんな感じでフワッと説明を続けることにする。

    キリトは自分が仮想世界の中で目覚めた(?)ことを知り、ログアウトしようとするができなかった。そこで彼は色々と考え、なんとかしてスタッフと連絡を取る方法はないかと、この世界の中心にあるという公理教会を目指し、剣士として取り立てられるよう相棒ユージオとともに村を出る。それはまたユージオにとっては幼い頃に連れ去られた少女アリスの行方を追うことでもあった。

    この作品のすごいところは、いわゆるシミュレーション仮説つまり私たちが現実だと感じている世界そのものが上位の存在によるシミュレーションによって作られたものであるという考え方に踏み込んでいるところだと思う。

    本シリーズのテーマとして、仮想世界だって現実と同じなんだという主張が既に作者によって明らかにされており、仮想世界の中でだって人間関係があって本物の経験があるんだということが描かれてきた。でもそれはあくまで現実世界に生きている私たちのような人間が仮想世界の中で過ごすことによって得られた感覚に過ぎなかった。今回はなんと、仮想世界の中で生まれ育った人工知能ならどうだろうと話を進めている。彼らにとっては仮想世界こそが現実世界なのだ。

    さらにそこから話は膨らみ、人工知能の技術を奪おうとする謎の武装勢力が襲撃してくる。防戦して膠着状態になると今度は仮想世界の中で戦争が始まるという壮大な話が繰り広げられる。何かあったときのためにスーパーアカウントが用意されており、謎の武装勢力は暗黒神ベクタ等を使ってログインして干渉しようとするのに対して、明日奈は創世神ステイシアのキャラを使ってログインしてキリトを助けに行く。神話の中での戦いって実はこういうことだったんじゃないかと思わせるぐらい素晴らしい気づきだと思う。いまのこの現実世界って上位存在が興味を失ってただただ流され続けているシミュレーションに過ぎないんじゃないかっていう。

    自分はこの作品を、映画で最高の興行成績を誇っていた(もう抜かれたらしいけど)ジェイムズ・キャメロン「アバター」に勝るとも劣らないと思う。…ちゃんと贅肉が削ぎ落されていれば。星雲賞を取っていないのが信じられない。

    この作品、途中からすごくだれる。特に人界編のラストバトルに丸々一冊使っているし、アンダーワールド(仮想世界)ウォーも単調な戦いが続いて飽きる。これまでのヒロインたちがオールスターで登場して盛り上がるけど大味になっていると思う。「心意」と言って、この仮想世界では量子脳である「フラクトライト」同士の干渉によって意志の力で現実を曲げることが出来るという設定になっているので、より強い想いを持っている方が勝つという安易な戦闘描写が続く。

    それと多分作者は映像作品的な演出を想定して書いたのだと思う。作中にスタッフロール(?)があったのには笑った。きっとメディアミックスに関わったすべてのスタッフへの感謝と誇りがあったのだと思う。アニメ化よりもさらに前の商業出版前の時点で既にここまでは書かれていたらしいから、露骨なアニメ化を狙ったわけではないんだろうけど、それでも小説として突き詰めようという気はなかったんじゃないかと思わざるを得ない。あるいは最初のアインクラッド編は賞に応募するために削りに削ったというから(それでも長くなりすぎて応募は断念したようだけど)、人気が出たので削らなくなってしまったのかもしれない。

    人工知能の描写が浅い。人工知能が決まりを破れなかったのはあとで理由が説明されているけれど、この程度のことが他の誰も気づかなかったのは不自然だと思う。ディープラーニングで学習したAIが人間の常識を超えた妙手を考え出すぐらいなんだし。あ、この作品はディープラーニングが広く知られる前に書かれたんだっけか。ニューラルネット自体はとっくにあったけど。

    仮想世界の貴族の多くが欲望にまみれているのは、祖先の人工知能を教育した人間の中にそういう人間が潜り込んでいたからだとされているのだけど、そんなに簡単に片づけてしまっていいのだろうか。貴族というのは多くの創作物で敵役になる便利な存在なのだけど、彼らのような存在が生まれたのにはちゃんとした歴史的な合理性があり、欲深いのはそう教え込まれたからだというのはいかにも浅い。

    AIの人権について触れているのは本格的なSF作品だなと思わされた。でも電気代掛かるとかいうけど、倍率上げちゃえばすぐ時間が経過するのでそのうち滅びると思うw 地球にだって寿命があるんだし、そこは恨まないでほしい。それともアンダーワールドにもエクソダス(地球脱出)は訪れるのだろうか。

    人界編のラストバトルが長すぎると書いたけれど、一方でその後のエピソードも含めてラスボスの振る舞いにはちょっと感銘を受けた。仮想世界を支配するに至った存在が、上位世界の存在を知った時にどうするか。アリスよりもこいつのほうが人間らしいと思った。

    人界編の道中の話はとても読ませる内容で、キリトたちが逆境を乗り越えて敵に打ち勝っていく展開は楽しかった。キリトが自分の剣になかなか名前をつけずに「黒いの」と呼んでいるとことかウケた。

    アンダーワールド人とアスナがバチバチするところは読んでいて吹き出してしまった。

    アンダーワールド内での戦争のラストシーンがとても良かった。思わず勝手に脳内で映像化してしまった。いまからアニメで見るときが楽しみだ。しばらく見る気はないけど。

    続刊はどうやらアンダーワールドのその後が描かれるようだった。

    ひょっとしたら人工知能にそれほど興味ない人にとっては普通に面白い話に過ぎないのかもしれないけれど、SFの魅力にも触れることのできるファンタジー大河小説(?)として多くの人に勧めたい。

    (最終更新日: 2021年1月13日 by ひっちぃ)

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