魔拳のデイドリーマー
原作:西和尚 漫画:村松麻由 (アルファポリス)
まあまあ(10点) 2022年2月20日 ひっちぃ
事故死した大学生がファンタジー風の異世界に生まれ変わり、人里離れた場所で夢魔の母親に育てられ愛情たっぷりに英才教育を受けたが、ある日突然書置きを残してその母親がいなくなり、冒険者として独り立ちする。小説投稿サイトの小説が原作の少年漫画。
この手の作品があふれているのでまとまった巻数があって特に完結済みの作品ということでこれを選んで読んでみた。まあまあおもしろかった。
題のとおり主人公が格闘家で、強力な手甲脚甲を装備しているため敵の剣をそれで受けることができる。また、独自に研究した強力な魔法も使え、攻撃だけでなく防御のほか足を速くするなど結構万能な感じ。デイドリーマーとは主人公が転生者かつ強すぎて現実の壁に阻まれることがほとんどないため、まるで空想の世界に生きているかのように現実感覚に乏しいことを言っており、本気で世界と向き合うことができるようになることが主人公にとっての大きなテーマとなっている。
序盤でメガネっ子の女冒険者と出会う。こいつが絵的にも性格的にも自分の好みだったおかげでさくさく読み進んでいった。彼女にはなにやら裏がある感じだったけど、主人公は強すぎるのでおかまいなしに接し、たやすく問題を解決してしまう。彼女はちょっとキツい性格をしており、主人公があきれたことをするたびにジト目でにらんでくるのだけど、主人公にとってはそれが好物(!)でもあるというのがウケるし自分もかわいいと思った。
辺境で育ったためこの世界のことがよく分かっていない主人公は、その女冒険者とともに冒険者としてやっていくうちに色々と教えてもらう。例によってギルドに登録してランクを上げていくという展開になり、たちまちランクを上げ注目を浴びる主人公たち。
育ての母親の夢魔には26人もの子供(!)がいてそのうちの何人かと出会う。主人公は末弟なので兄姉たちはみんな強力な力を持っており、味方となり師匠となって稽古をつけてくれる。ちょっと正直あまり好きになれない展開だった。なんでだろう。うさぎミミ(?)の美人なお姉さんがめっちゃ強い上に商人として大成功しているという設定を受け入れたくないからだろうか。兄たちのほうは説得力のある個性でこっちは割と普通に受け入れられた。
やたら正義感が強くて暴走しちゃっているパーティに絡まれる。盗みを働いた少年が商人たちにボコられているのを黙って見ていたと難癖をつけられるのだが、転生者としての経験もあり主人公はきっちりと反論し、結局話は通じなかったけれどその場はやりすごす。しかし次の仕事で運悪くまた鉢合わせ、奴隷商人に奴隷を解放しろと迫っている彼らと再びトラブルになってしまう。
主人公にとってこの世界は本気で生きていかなければならない場所なので決して「デイドリーマー」になるなというテーマが緩く貫かれているのだけど、正直自分はあまりピンとこなかった。現代人にも少なからず同じ問題があると思うのだけど、この物語の主人公は強すぎてなんでもかんでも自分の思い通りにできるせいで現実感に乏しいのであって、私たちが抱える問題とは全然違っていてあまり共感できないと思う。だから自分は読んでいて主人公のことをふーんとしか思えなかったし、分かりにくいテーマなのであまり入っていけなかった。
サブヒロインとして戦闘狂の褐色ポニテヒロインが出てくるのだけど、こいつのこともあまり好きになれなかった。閉鎖的な村を出て一人冒険者になった変わり者なのだけどやたらと戦いたがるところに十分な説得力を見いだせず、嫌いとまではいかないのだけどあまり受け入れられなかった。途中で謎の情報屋の男ともよく出会いなんだかんだで一緒に行動するようになるのだけど、こいつのこともよく分からない存在のまま読み進めてしまった。
ちょっとだけ読み返してみたらそういえば衛兵隊長が温厚な美人のお姉さんで性格もよかったのだけど、結局主人公とは微妙な距離感だったしただ女を隊長にしてみました感しかなくて好きになれなかった。この作品、ストーリーはほどほどに面白いのだけど正ヒロイン以外の味方キャラにあんまり魅力がないと思う。正ヒロインも表面的な魅力だけ。敵キャラのほうが色々あってよかった。
たぶん原作はそれほど消化してなさそうなうちに単行本9巻でこのコミカライズ版は完結してしまった。原作は結構人気あるみたいなので、コミカライズでビジュアルを重視しすぎて性格描写を削りすぎたのかなと思ったけれど原作を読んでいないのでよくわからない。いまのところあまり原作を読みたいという気持ちにはなっていないけれど、いずれ読んでみてもいいかなぐらいには思っている。
[参考] https://www.alphapolis.co.jp/ manga/official/ 87000136
(最終更新日: 2022年2月20日 by ひっちぃ)
|