機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 9話まで
監督: 長井龍雪 シリーズ構成: 岡田麿里 制作: サンライズ, MBS
いまいち(-10点) 2023年8月28日 ひっちぃ
人類が太陽系に進出してから随分たった空想未来の火星で、一民間軍事企業に囲われて厳しい労働をさせられていた少年たちのもとに要人警護の仕事が舞い込んだ。なぜか巨大な治安維持組織ギャラルホルンの部隊に襲撃された彼らは、周りの大人たちのあまりの不甲斐なさにキレて自分たちで未来を作ろうとする。日本でもっとも人気のあるロボットアニメシリーズの作品の一つ。
シリーズの一つ前(?)の作品「ガンダム Gのレコンギスタ」があまりにつまらなくて即行見るのをやめたので、本作が始まっても取り合えず録画だけしとこうと思ってそのまま放置していたのだけど、最近ハードディスクがいっぱいになってきたので仕方なく見てみることにした。まあ最初はそこそこ見れたのだけど、だんだんなにが楽しいのか分からなくなってきたのでそろそろ視聴をやめることにした。
本作の主人公はたぶんガンダムのパイロットである三日月で、こいつは少年たちのリーダーであるオルカのことを完全に信頼しており、指示があれば平気で人を撃ち殺すメンタリティを持っていることが冒頭から描かれる。でも普段はちょっとおとなしい少年で仲間とも普通に会話する。
もう一人の主人公がそのオルカのほうで、ファン投票ではこいつのほうが人気が高いらしい。長身イケメンで仲間思いの良きリーダーって感じ。ギャラルホルンの部隊に襲撃されたときに大人たちが少年たちだけ戦わせて自分たちは一目散に逃げだしたのを見て蜂起を決める。大人たちが自分たちの部隊を「一軍」と言っていて、少年たちに「一軍が逃げたぞ」みたいに言われていたのがウケたw
ヒロインも二人いて、一人は三日月の幼馴染っぽい少女アトラで素朴な田舎娘って感じ。三日月のために作ったブレスレット(というかミサンガ?)とお揃いのものを自分も身に着けている。もう一人は火星の一自治区首相の娘で金髪縦ロールのお嬢様クーデリアで、少年たちが依頼された警護対象の要人とは彼女のこと。少年兵のことを知るためにあえて少年たちに警護を依頼したが、自分が世間知らずだったことに気づいていく。
ガンダムシリーズの作品ってどれも設定が素晴らしいと思う。今回は民間軍事企業と少年兵、植民地支配、国際組織、と現実の国際問題にあるような要素がちりばめられている。「阿頼耶識システム」という怪しいサイバネティクスのために大人たちは少年たちに危険な手術を受けさせている。
第一話はそんな世界設定をざっくりとなでながら、シリーズの顔となっている「ガンダム」と呼ばれる象徴的な戦闘用巨大ロボットが敵に強力な一撃を加えるまでを描き切っている。テレビ朝日「まんが未知」でマンガ家の山田玲司が言っていたような、第一話でちゃんと作品のウリである「ガンダム」を出したうえで第二話、第三話で視聴者の興味を煽っていくというエンタメの基本を完全に踏襲した流れにちょっと感動した。
でも9話目まで見て自分はあまりこの作品を楽しめていないことに気づいた。
まず、ストーリー展開になにも期待できなかった。火星の独立運動の旗印となっている娘クーデリアを地球に送り届けるのが当面の目的なのだけど、クーデリアが地球に行ったら何が変わるんだろうか?フワッとしていて明らかに説明が足りていないと思う。それにその娘を暗殺するためギャラルホルンの末端の小悪党が部隊を率いて襲ってくるという流れも安易すぎる。武力をちらつかせながら買収して身柄を確保してから事故死に見せかけて殺した方がはるかに楽だったはず。
ギャラルホルンのベテラン隊長が後日ロボット同士での一騎打ちを挑んでくるのもよくわからなかった。こういう強い意志を持った年配キャラが必要だと考えてどっかからコピってきたんじゃないかってぐらい不自然だった。残されたルーキーが悔しがって少年兵たちを執拗に狙うようになる流れもヘンすぎた。たぶんガンダムといえば人の強い意志と意志のぶつかり合いなんだというこだわりがあって逆算しながら作っていったからだと思う。
少年たちの生計を保証しようと言ってくる人物が途中で現れるのだけど、オルカはあくまで自分たちが全員まとまっていることが条件だと言って蹴る。最初見たときはふーん団結力が高いんだなと思っただけだったんだけど、改めて考えてみるとやっぱりちょっと違うと思う。大人を信用できないから自分たちだけでまとまりたいはずであり、そのためにしぶしぶ大人の下につく選択をするのだと思う。なんかそういう葛藤とか全然描かれていないので浅く感じてしまう。
どうもこの作品は若い層をターゲットに作られたみたいだから、大人に反抗する少年たちをより純粋な形で描き出したかったのかな。だから、都合よく自分たちを認めてくれる大人が現れて独り立ちする展開になったんだろうな。タービンズとの戦闘と和解はほんと茶番だと思った。あのハーレム艦自体気持ち悪いし(関係ないかw)。
三日月がヒロイン二人に対して恋愛感情を持っていなさそうなのは少年マンガ的な感じを狙っているんだろうか。田舎娘アトラのほうは意識しており、令嬢クーデリアの出現であわてているのがかわいいんだけど、クーデリアのほうは自分のことで手一杯でそれどころじゃない感じ。なんにせよロマンス的な展開も期待できそうになかった。
っていうか三日月はなぜオルカのことをあそこまで妄信しているのか。冒頭でも作中でもオルカの指示で簡単に人殺しをしている。この疑問に対して少なくとも9話まではなんのヒントもなく、また興味をかきたてる別の事実も提供されない。これで主人公に対して興味を持てるだろうか?
オルカは元々ライバルだったユージンとか「ヒューマンデブリ」いわゆる奴隷階級の昭弘なんかのクセの強いメンバーもまとめあげているのだけど、なんかもう作中では人間関係がほぼほぼうまくいっていて意見の衝突とかしない感じなのも「ワンピース」的な感じを狙っているんだろうか。うすら寒い友情を見させられているようでまったく引き込まれなかった。
という自分の分析が正しいかどうかはともかく、世間的には本作はどちらかというと女性向けの作品とされており、人気の程度としても佳作的な評価にとどまっているみたいだった。惰性で見続けることはできそうだったけど、時間の無駄だと思った。
どうやら子供向けいや若者向けの作品みたいなので中高年がそれほど楽しめないのは仕方ないというか想定どおりなのかもしれないけれど、若者も楽しめたんだろうか?とりあえず自分としては、最近サービス終了を決定した「ガンダムエボリューション」というゲームに出てきた謎のガンダムがちょうどこの作品に出てきたバルバトスだったので把握できたのはよかった。
でもって最新作「水星の魔女」もすっかりハードディスクの肥しになっており、これもネットでの評判から駄作であることが分かっているので(!)、模範的な消費者をやろうとするとそれを承知で視聴しなければならないことになる。もういい加減「どうせ駄作だからもう見ない」と「偏見」を発動させたほうが楽になれるんじゃないだろうか?
というわけで、独特の世界設定の中で底辺を這いずる少年たちの生きざまを味わう自信のある人は見てみてもいいかもしれないけれど、そうじゃなければスルーしたほうがいいと思う。ガンダムシリーズ自体が好きな人は、どこかであらすじとか要約を見て済ませるのがいいんじゃないだろうか。
[参考] http://g-tekketsu.com/
|