SPY×FAMILY 13巻まで
遠藤達哉 (集英社 ジャンプコミックス+)
まあまあ(10点) 2024年3月31日 ひっちぃ
東西冷戦が続く架空の世界で、西側の凄腕スパイ・コードネーム「黄昏(たそがれ)」は東側の大物政治家と接触するため、孤児院で拾ってきた少女アーニャを名門イーデン校に入れようと偽物の家族をでっちあげる。少年マンガ。
次にヒットしそうなマンガを挙げていく匿名掲示板のまとめ記事を何年か前に見てこの作品を知り、読んでみて最初はおもしろかったのだけど最近は全然おもしろくなくなってきたので、そろそろ読むのをやめようと思って感想を書いておくことにした。
この作品の特徴は、題にあるように家族をでっちあげること。主人公の「黄昏」はまずそこそこ社会的地位の高い精神科医ロイド・フォージャーになりすますのだけど、直接敵国の要人と接触しようとしても警戒されてしまうので、将を射んとする者はまず馬を射よとばかりにそいつの子供から攻めるのがオペレーション「梟(ストリクス)」なのだった。
そこで黄昏ことロイド・フォージャーはその子供のいる名門イーデン校に入り込むため、孤児院でやたら頭のよさそうだった少女アーニャを引き取ったのだけど、連れ帰ってみると全然ダメな子であることがわかる。というのもそのアーニャは実は人の心が読める超能力の持ち主で、孤児院ではうまいこと心を読んで頭のいいフリができたから。
さらにイーデンに受かるには家族での面接が必要ということで次は奥さん役を探す。たまたまアーニャがなついた天然女ヨルを母親にするのだが、なんと彼女は裏で暗殺者をやっていた。これは偶然ではなくて、そういうのが大好きなアーニャはそれを知った上でなついていたのだった。
自分がこの作品をすごくいいと思ったのは、アーニャがなまじ心が読めるだけに、この偽りの家族がちゃんとやっていけるよう子供なりに一生懸命考えて行動するのがとてもいじらしかったから。それがひどくとんちんかんな努力だったら笑えるし、本当に家族が破綻しそうになったら必死になるという切なさがなんともいえなかった。
でもこの構造は割とあっさり放棄されてしまう。イーデン校に入ったらそこでの子供たちや先生たちとのやりとりが中心になり、家族のほうは大して軸ではなくなってしまう。それにどこかコミカルでおちゃらけた空気がただよっていて、物語が浮ついた感じがしだした。
天然女ヨルは裏では凄腕の暗殺者なのだけど表では冴えないOLをやっており、自分が誰かと結婚できるとは思っていなかっただけに、ロイドに見初められて戸惑いながら少女アーニャの母親としてそしてロイドの恋人としてやっていく。そんなヨルの喜びも味わいたかったのに、もっぱらギャグマンガのヒロインにされてしまっていて物足りなかった。
ヨルの弟が敵国のエリート保安員だという設定なんだけど、こいつは姉バカすぎてアホなことばかりするのにもうんざりした。情報屋の髪がモジャモジャした男もやたらモテないキャラが前面に出されてステレオタイプに感じた。こういうわかりやすいキャラを出すんだったら、せめてなにかしらキャラを特徴づける独特な点を持っていてほしかった。
作者はキャラを浅く描きすぎだと思う。これだけいい設定があるんだから、あとはそれぞれのやりたいこと、願いや気持ちを描写していけばいいだけだと思うんだけど、すぐにわかりやすいギャグにしてしまう。それもそのはずで、作者はあまりこの作品のキャラに愛着を持っていないらしい。なにかのインタビュー記事でそう言っていたとまとめサイトで読んだ覚えがある。
あるいはギャグマンガにシリアスを求めている自分が悪いんだろうか。少なくとも序盤を読んだらシリアス多めを期待して当然じゃないだろうか。これがギャグマンガへの助走なのだとしたら無駄すぎる。最近は上司の管理官(ハンドラー)までギャグ時空に巻き込まれているけれど、昔の結婚生活を懐かしむ一コマも挿入されてドキッとさせられるのだから、どこをどう楽しめばいいのかわからなくなる。シリアスはスパイス程度にしておきたいんだろうか。
自分が最初にこの作品のことをどうでもいいと思うようになったのは、テニス大会でロイドとヨルが無双してしまったエピソードだろうか。そりゃ一流のスパイと一流の暗殺者のコンビなのだから運動神経はきっと抜群なんだろうけど、だからといってテニスまで一流なんてまずありえない。そんなの気にしなければいいのにと思うかもしれないけど、こういう極端な設定が自分はどうしても気になってしまい、作品世界が色褪せたように感じてしまう。
最近の巻では、あまり頭の良くないはずのヨルが戦争で大事な人を亡くした人をめぐってとても理屈っぽい主張をしていた。うーん、違うんだよなあ。こういうキャラは理屈じゃなくて感じたことを素直に言って人を感動させるものなのに。まあそれこそステレオタイプなのかもしれないけど。
偽物の家族が本物の家族になっていくという明確な「正解」があるはずなのに、なぜそれを頑なにやらないのだろう。
引きのばしがひどい、みたいなネットの声を拾ったまとめ記事も出ているぐらいで、自分もまったくそのとおりだと思った。いっそそろそろ時間を経過させてアーニャを中学生ぐらいにしちゃったほうがいいと思う。そのほうが彼女の気持ちを描きやすいんじゃないだろうか。最新巻では彼女が古文を通じて勉強に覚醒していくみたいな展開が描かれているので、なにか変えようとしているのかもしれない。
というわけで、この作品を長く読み進めるのはおすすめしないけれど、かつての東西冷静を扱っているのであの当時の世界を味わいたい人、幼女アーニャがまわりを巻き込んでいく愛らしいギャグマンガを楽しめそうであれば読んでもいいと思う。
[参考] https://shonenjumpplus.com/ episode/ 10834108156648240735
|