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  • アオアシ 35巻まで

    小林有吾 (小学館 ビッグスピリッツコミックス)

    傑作(30点)
    2024年4月29日
    ひっちぃ

    愛媛の公立中学校のサッカー部で自分中心のチームを作り上げて活躍していたアシト少年だったが、プロユースチームの監督の目に留まり、東京にセレクションを受けに来いと誘われる。貧しい母子家庭で育った彼は、プロのサッカー選手になる夢を追いかける。少年マンガ。

    2022年にNHKでアニメ化されたのを見てとてもおもしろかったので、筋をある程度忘れたのを見計らってこの原作マンガを読んでみた。とてもおもしろかったんだけど、なんかいろいろヘンに思えてこの作品のことをそこまで好きになれなかった。

    この作品の一番おもしろいところは、サッカーというスポーツを物語の中で自然かつ丁寧に描いてみせているところだと思う。

    主人公のアシト少年こと青井葦人はどこにでもいそうな目立ちたがりの少年で、地元のサッカーチームでは自分が点を取ることにこだわったせいでハブられ、それでもサッカーがやりたくて中学校のサッカー部に入り、その中ではとてもうまかったこともあって自然に彼にボールが集まるようになる。チームは強くなり、アシト少年は仲間から慕われる。

    そこへ東京から来たというやたらサッカーのうまい男がアシト少年に技を見せる。ボールはただトラップ(受け)するのではなく、次の動作につなげるのだと言ってやってみせる。最初はよくわからなかったアシトだったが、好きなサッカーに対してものすごい集中力を発揮して掴んでみせる。しかし男の目を引いたのはアシトの目だった。

    目というか記憶力?アシトはプレイ中の敵味方の動きを完璧に覚えていた。たぶん意識して見ないと覚えられないと思うので集中力かもしれない。この作品の特徴は、そんなアシト少年が目の良さを活かして戦っていくところだろうか。ボールさばきはむしろへたくそな方だった。もちろん誰よりもうまくなりたいという熱意を持った努力家だし、仲間に対しても熱い思いを持っている。

    男はアシトを東京のユースチームのセレクション(オーディションみたいなもん)に誘う。まだ中学生のアシト少年が、貧乏な母子家庭で母親に負担を掛けたくないと思い、そこで一つのドラマが描かれたあとでセレクション編が始まる。

    この作品、ストーリーはおもしろいんだけど、人間ドラマの描写が全然しっくりこなかった。中学生の我が子を送り出す母親の描写はまだなんとか見られたのだけど、ヒロインである一条花がずっと意味不明だった。

    彼女は「アシトを東京へ誘った男」こと福田監督の義理の妹で、かつて好きだった選手(福田監督のこと?)とアシトは似ていると言う。でもその割に福田監督との関係はろくに描かれていない。それにいま振り返ると似ている要素なんてほとんどなかった。

    一条花はアシトの健康状態を気遣ってスポーツ選手に最適な献立を考えて送ったり、自分はアシトの「最初のファン」だと言って応援し始める。アシトの何が彼女を引きつけたのだろう。まあ人が人を好きになる理由とかきっかけなんて些細なことなのかもしれないけど、彼女の行動は非常に分かりづらいものだった。

    もっと意味不明なのがスポンサーである海堂電機の社長令嬢の杏里で、こいつはサッカー監督を目指していてそこはとてもおもしろいんだけど、サッカーの勉強をするためにアシトのルームメイトである富樫から教えを受けているにも関わらず、なんとこいつもアシトのことが好きだという。

    ついでにもう一人サブヒロインを紹介すると、チームメイトの橘の双子の姉である都という褐色ヒロインがいて、こいつは男勝りな性格をしていて女子サッカーをやっている。自分はこういうキャラが結構ストライクなのでもっと活躍してほしかったけどあんまり出番がなかった。でも練習相手として駆り出されるエピソードがあって良かった。ちなみにそのとき杏里も出ててそこそこプレイしていた。

    この作品では様々な対立が描かれる。まずはセレクション時に一緒に受けた人たちや、そのとき相手となったユース生、先輩、かつて同じ仲間だったけど別の高校やチームに移った人。みんなそれぞれ動機があって衝突し、その後は仲良くなるのがとてもよかった。でもプロットがいいだけで描写は微妙だと思う。

    自分が一番印象に残ったエピソードは、黒田と朝利とでトライアングルを構成する話だった。これまで基本的なことが出来ていなかったアシトに対して、ジュニアユースから上がってきた黒田たちは冷淡で見放していた。しかし、アシトの体当たりのコミュニケーションと試合中の気づきにより自分が何をすればよいのか分かり、彼らの信頼を得る。

    だけどこれがピークで、ジュニアユースからの昇格組に対してやたらと敵愾心を燃やしていたスカウト生の富樫の心変わり(?)や、序盤アシトの心を折りに来た阿久津との和解(?)、チームのムードメーカー的存在であるはずの大友がそこまで大したことやってなかったりと、小さなことまで挙げていたらキリがないほど多くの微妙な点があった。

    もちろん主人公アシト自身についてもそれは言えて、足立花に対してどう思っているか、作中の大きな挫折についてどう感じたのか、なにがしたくてどうがんばっているか、みたいな描写が全然足りていないように思った。自分が点を取ることにこだわってるんだったら自己中心的なんだと思うけど、その性格はどうなったんだろうか。

    絵はいろんなキャラがまんべんなく魅力的に描かれていてとても良かったんだけど、たまにデッサンが狂ったのかそれともあえてバランスを崩しているのか足首から下がやたら大きかったり顔が小さくて細すぎたりしていて不自然に感じた。あと、福田監督の若い頃が栗林顔だったのもちょっとうんざりした。女の子は三者三葉というか女記者の金子葵や竹島の彼女まで含めてみんなすごくかわいかった。

    トップチームの大先輩である司馬さんの顔立ちが「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズに出てくるイタリア人のブチャラティっぽくて笑った。

    自分はこの作品をあまり好きになれなかったけど、たぶん感受性が豊かでキャラに愛を注ぎ込める人にとっては大好きになれるんじゃないかと思う。なにせそのためのストーリーはよくできていて想像を膨らませやすいのだから。サッカーが好きだとなお良いと思う。

    [参考]
    https://bigcomics.jp/series/
    55780851b65d5/

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